「急がなければならないことほど、ゆっくりやれ」「急がなくていいことほど、早くやれ」
ジブリの鈴木敏夫さんから、一見矛盾するような仕事のアドバイスを受け取ったアニメーション映画プロデューサーの石井朋彦さん。まるでとんちのような言葉に隠された、いい仕事をするための極意とは? 鈴木さんの下で、仕事のいろはから人生の生き方までを学んだ石井さんの新刊『新装版 自分を捨てる仕事術』(WAVE出版)より一部抜粋してお届けする。(全2回の2回目/前編を読む)
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急がなければならないことほど、ゆっくりやれ
鈴木さんは、せっかちです。
食事は5分以内で食べてしまうし、風呂もカラスの行水。
朝、鈴木さんから電話がかかってきて、矢継ぎ早に指示を出し始めたので、急いでメモを取っていると、階段の下から、受話器の向こうと同じ声が響いてきて、部屋に入ってきた鈴木さんに「できた?」と言われたことがあります。
つい最近、鈴木さんから「原稿を書いてほしい」というメールがあり、あわててパソコンを開いて書き始めたら、15分後に鈴木さん自らが書いた原稿が送られてきました。
宮崎監督も、日本一といっていいほどのせっかちです。
宮崎さんは絵コンテを連載漫画のように、20~30ページずつ描き上げ、スタッフに配布します。すぐに感想を聞きたがる宮崎さんは、受け取ったぼくらが2~3ページほど読み進めたところで「どうだ!」と感想を聞いてくるのです。答えようがありません。
そこで深夜、宮崎さんが帰宅すると、宮崎さんの机にある絵コンテをこっそり暗記し、翌日に備えるようにしていました。
でも、仕事を覚え始め、鈴木さんのスピード感に追いつき始めたころ、こう言われるようになりました。
「急がなければならないことほど、ゆっくりやれ」
その言葉に最初は混乱し、反発したように思います。
スピードに勝るものはないし、たとえ間違ったとしても、走りながら修正したほうが、ノロノロ仕事をするよりもずっといい。だいたい、大事なことほど鈴木さんは早急さを求めます。ゆっくりやったら終わらないじゃないか、と。