ぼくが、鈴木さんの言葉の意味を実感したのは、まったく逆の言葉を聞いたときでした。
「急がなくていいことほど、早くやれ」
まるでとんちのようですが、鈴木さんは、ていねいに教えてくれました。
「人は、急がなくていいことをやらないでためてしまい、大事なことをやる時間を失っている。結果、急いでやらなければならないことほど大事なのに、わずかな時間で実行しようとし、事をし損じるんだ」
そのためには、ひとりの時間をつくって、急がなくてもいいけれども、すぐできることを先に片づけてしまい、急がなければならない重要なことほど、じっくり時間をかけて考えて実行せよ、と言いました。
「急がなくていいこと」「急いでやるべきこと」とは?
「急がなくていいこと」とは、たとえば、業務連絡や共有事項の伝達、メールの返信、スケジュールの確認など、比較的いつでもできる仕事です。
「急いでやるべきこと」とは、機械的に処理できない重要な仕事です。
ぼくの場合は、企画書の執筆、予算表の作成、プロットや脚本のチェック、制作過程の映像や音響の確認、宣伝素材の読み込みです。これに加えて、課題やトラブルに対応するための戦略を練ったり、人間関係の調整などがこれに当たります。
営業職であれば、取引先への提出資料の制作や、お金まわりの整理、何よりも重要な、取引先への訪問などへの時間が、それに当たるでしょう。
企画職、デザイン職であれば、新たなアイデアを生み出し、形にする時間がこれに当たります。
朝喫茶店に入って、やるべき仕事を書き出し、簡単な仕事を片っ端から片づけていくのは前述したとおり。そのあいだも脳は、「急いでやるべき重要なこと」を考え続けているので、簡単な仕事をこなしていても、重要な仕事について、思いを巡らせていることになります。
そして、ある程度脳のバッファーが空いたら、急がなければならない重要なこととじっくり向き合います。