自分が勝つことの意味
「一つ目の試合で勝てて熊本のために第一歩を踏めて良かった」
一昨年の4月14日に発生した「熊本地震」で、生まれ育った故郷が大きな揺れにさらされた。甚大な被害を受けた益城町は、実家から車で10分ほどの距離で、親戚や知人も被災。幼い頃、遊びに出かける際、待ち合わせ場所にしていた馴染みのスーパーが倒壊したことを涙ながらに友人から伝えられた。「熊本に行こうと思っても、自分は行けないので……」。当時、初めて開幕ローテーション入りし、結果を出さなければならない立場でも「投げる理由」がなかなか見い出せず苦悩した。
「正直、野球どころではないと思いましたし、自分が勝っても、勝たなくてもいいやと。とにかく熊本のことが心配だった」。ただ、葛藤と戦う中で背中を押してくれたのも「熊本」だった。
「僕の投球を見て、熊本の人たちが“勇気をもらった”“元気をもらった”と連絡をくれた。自分が勝つことの意味を、そこで理解できた。離れたところでニュースを見て、ショックを受けている僕たちより、被災している人たちの方が、前を向いていた」。絶望に打ちひしがれながらも、復興へ動き出す人々に、マウンドへ送り出された気分だった。
昨年は1勝につき義援金10万円、1奪三振につき益城町の少年野球チームに軟式球1ダースを寄贈。今年も自身の個人成績に応じた復興支援活動を継続する予定で「昨年よりも熊本に貢献できるように。高い意識を持ってやっていきたい」と決意を固めた。「チームのため、自分のため、熊本のために全力で白星を積み重ねていきたい」。決して途絶えることのない「復興」の思いを胸に、岩貞祐太の負けられない1年が幕を開けた。
遠藤礼(スポーツニッポン)
※「文春野球コラム ペナントレース2018」実施中。コラムがおもしろいと思ったらオリジナルサイトhttp://bunshun.jp/articles/-/6767でHITボタンを押してください。
この記事を応援したい方は上のボールをクリック。詳細はこちらから。