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なぜ皇帝ネロが「女性」なのか?

――キャラクターが生まれるまでには、具体的にはどのような工程があるのですか。シリーズ全体で390体以上のサーヴァントが生まれています。

奈須 『FGO』の前までは、キャラクターの設定作り等ひとりで請け負っていたんですが、だんだん登場キャラクターの数も多くなってきたので、チームで手分けしています。ひとりでやっていたら資料探しだけで1年が終わってしまうでしょうね。

 今では僕を含めたライターチームのみんなが、それぞれ専門性をもって役割分担をしています。例えば、「Aさんは北欧神話を基にしたサーヴァントの提案をお願いします」、「Bさんはインド系のサーヴァントの設定を考えてください」といった具合です。はじめはそれぞれのプロフェッショナルな分野をつくる気はなかったんですが、8年も続けているうちに得意なジャンルが固まってきました。「インドの英霊か。それならBさんが得意だよね」といった感じになっています。

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 ただ、分野に関係なく、「このキャラクターの設定はどうしても自分がやりたい!」というケースもあります。『FGO』は第1部、第2部ともに7ほどの章に分かれていますが、その各章のシナリオを各ライターが書きます。そのシナリオは、1章で小説1.5冊か2冊分ぐらいの分量になるんです。それくらいの長さのシナリオを各ライターが責任を持って仕上げていく。

 そうすると、すでに制作したサーヴァントだけではなく、ストーリーの核になるような、新たなサーヴァントが必要になってくる時がある。そういう場合は、新しいサーヴァント自体を担当ライターが責任を持って設定し、物語の核に据えてシナリオを制作します。

――実際の歴史や物語上では男性とされる人物が、『FGO』では女性サーヴァントとして召喚されている、というケースがあります。アーサー王、源頼光、皇帝ネロは、女性サーヴァントとして登場しますよね。

奈須 「この章には男性が多いから、女性を入れよう」といった調整の中で性別が変わっていくこともありますし、男性ユーザーが多いので女性キャラを入れたい、という運営側の事情もあります。ただ、誰でも安易に性別を変更しているわけではないんです。実際の歴史や物語をリスペクトして、ここでも資料を集めて設定考証をします。

 例えば『古事記』でいえば、ヤマトタケルは女装して宴に潜入し、九州の豪族・クマソタケルを討ったという話がありますよね。このエピソードをもって女性化が相応しいというわけではありませんが、こういった「女装をしていた」とか「中性的な人物だった」といった情報はとても参考になるんです。

 資料を紐解いても女性化する根拠がまったく見えなかったら、運営側にいくら言われても「無理なものは無理です」と突っぱねればいい。ただ、歴史上において、残念ながら女性の偉人にこれまでスポットが当たらなかったこともあり、史実に基づくとどうしても女性のサーヴァントが少なくなる、という事情もあります。そのあたりの兼ね合いですね。

 平安時代中期の武将である源頼光(1.5部「亜種特異点3英霊剣豪七番勝負」ほかで登場)を女性にしてほしいというリクエストは、過去最大の無茶ぶりでした。強者揃いと言われた「頼光四天王(渡辺綱、坂田金時、碓井貞光、卜部季武)」のトップに立つ人間が女性だったなんて、そんな資料は探しても一切ないぞ、と。

女性として描かれた源頼光 ⒸTYPE-MOON/FGO PROJECT

 それでも、何かないかと調べていくと、「丑御前」という女性の逸話があって。平安京の端っこに丑御前という怖い女性が住んでいて、源頼光とも関係があり、頼光と同一視されていたという逸話があった。そうなると、丑御前が女性だから、それと同一人物という説もある源頼光には伝承の上だけですが女性である可能性がある……と。そういう閃きから、最終的にあのカタチになりました。

 最近は設定考証の方にお手伝いいただいて、「こういうエピソードがあったら資料をいただけますか」とお願いして知識を深めてもいます。

 正直、『FGO』は物語としてはズルいところもある。だって、偉人や英雄の人生って、それだけで面白いから。ただでさえ面白い材料をつかっているんだから、つまらないはずがない。そんな反則のようなことをさせてもらっているんだから、調査に関してはしっかり、敬意を払って調べよう、と。

 その上で100パーセントの力を出す。これは我々ライター陣だけでなく、キャラクターデザインをお願いする絵師の皆さんも、そう思っていると思います。

本記事の全文は「文藝春秋 電子版」に掲載されています。(奈須きのこ氏の前編後編にわたるロングインタビュー)

文藝春秋

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