依存心が強すぎる患者側の責任も
標準治療をすれば大外れにはならないとはいえ、マニュアル本どおりにしていたら、患者さんに個人差があるという点が抜け落ちてしまいます。
目の前にいる患者さんは、家ではどんな暮らしぶりなのか、どんな食生活をしているのか、どんなストレスがあるのか、運動はしているのか、何をしているときに癒しを感じるのか……。
人を知ろうとせず、数値とばかりにらめっこして、ステレオタイプな投薬を繰り返す。これでは「患者主体」の治療とはいえません。
前述のように、大量の薬を投与すれば、症状を軽くするどころか、副作用による害のほうが大きくなってしまいかねないのです。
そのうえ、高齢になれば肝臓の薬の分解機能も低下してきます。
腎臓の機能も落ちるので、体内に摂取した薬が排出しづらくなることから薬が血中に残りやすいことも考えられるのです。
とはいえ、患者さんにも責任の一端があるとわたしは思います。
医者を信じすぎているという点において。もっといえば依存心があまりにも強いという点において。
自分の身体のことなのですから、医者にかかって調子が悪いときに、どういうことが考えられるのかは今でも調べられますし、チャットGPTに聞けば教えてもらえるようになる日も近いでしょう。
いい医者かどうかのリトマス試験紙
今でも出された薬については、その薬にはどんな副作用があるのか、すぐにスマホでも調べられます。このくらいは最低、調べておくべきなのではないでしょうか。
その構えがあれば、調子が悪くなったときに、医者に「今の薬が合わないようなのですが」といいやすいでしょうし、「その薬にはこういう副作用がありますが、どうお考えですか?」と突っこんで尋ねることもできるのです。
本来、医者は、くわしいインフォームドコンセント(患者さんが治療について十分に理解するための説明をしたうえでの同意)がないと治療を進めてはいけないのです。
こういうことを聞かれて、機嫌が悪くなるような医者は自信がないか、傲慢なのかのどちらかでしょう。いずれにしても離れたほうがいいと思います。
つまり「質問攻め」は、自分の症状について学んでいる人だけが手にすることのできるリトマス試験紙といえるのです。
精神科医
1960年、大阪市生まれ。精神科医。東京大学医学部卒。ルネクリニック東京院院長、一橋大学経済学部・東京医科歯科大学非常勤講師。2022年3月発売の『80歳の壁』が2022年トーハン・日販年間総合ベストセラー1位に。メルマガ 和田秀樹の「テレビでもラジオでも言えないわたしの本音」