認知症と共にある人生を穏やかに送ることは十分可能。しかしそのためには本人や家族だけが背負うのではなく、ケアマネジャーと話し合い、介護保険サービスをフル活用することが必須となる。よいケアマネとの出会いこそが、よい「認知症生活」への近道なのだ。(全2回の2回目/前編を読む)

週刊文春 認知症全部わかる! 最新予防から発症後の対応まで」(文春ムック)

“治る認知症”の中には、手術が有効なものもある。特発性正常圧水頭症(iNPH)だ。滋賀医科大学脳神経外科学講座の山田茂樹助教が解説する。

「認知症を看ていても未だにiNPHのことを知らない、という医者もいます。脳の表面にあるくも膜下腔と脳の内部にある脳室という空間、さらに脊髄腔内には、脳脊髄液という無色透明の液体があります。脳脊髄液は脳内で産生された老廃物をリンパ管や静脈などを経由して脳外へ排出しますが、加齢以外の原因がないのに脳脊髄液の排出ができなくなり、蓄積してしまうのがiNPHです」

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 iNPHには特徴的な症状がある。患者の約9割に、他にはあまり例のない歩行障害が発生するという。

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「ほとんどの方が、歩く際につま先がハの字型になり開脚歩行、つまりガニ股になります。さらに歩幅が狭くなり、すり足で小刻みにしか進めなくなる。

 8割近くの方に、物忘れや気力の低下なども認められます。歩行障害があるので、家に引きこもってぼんやりしがちで、より認知症のように見られてしまいます。六割の方には尿失禁も発生します」(同前)

 山田氏は、こうした歩行障害を検知する「iTUG」というアプリを開発した。iPhoneにインストールすれば、誰でも自分の歩行状態を確認できる。

 特徴的な歩行障害があれば、CTやMRIなどの画像診断を行う。脳室や脳の下部のくも膜下腔が大きくなり、脳の上部のくも膜下腔が狭くなる特徴的な脳脊髄液の分布(DESH)によってわかるという。画像診断でiNPHが疑われた場合には、試験的に腰から脳脊髄液を抜いて、症状の変化を観察する(タップテスト)。