「認知症は一度発症したら治らない病気」……本当にそうだろうか? 現在、全国にいる462万人の認知症患者のうち、1割近くが投薬や手術で改善する可能性があるという。認知症と即断する前に、治る認知症のサインを見極めようよう。(全2回の1回目/後編を読む)

週刊文春 認知症全部わかる! 最新予防から発症後の対応まで」(文春ムック)

40万人が治る認知症の可能性、気づかずに悪化も

 物忘れや判断力の低下が徐々に進行していく。そのスピードを遅らせることはできても、元には戻せない――。ゆえに誰もが恐れる認知症。だが「うちのおじいちゃん、最近おかしい。認知症ね」と即断する前に、疑うべきことがある。重要なのは「正しい診断」だ。

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 一度発症したら、基本的に治ることはないとされる認知症。脳の器質的な障害により、記憶障害や認知機能の低下などが徐々に進行していく。

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 現状では、アリセプト、レミニール、メマリーといった抗認知症薬で症状の進行を抑えたり、徘徊やせん妄、介護拒否、暴力といった周辺症状を改善することしか出来ない。生命保険会社の調査によれば、中高年の約四割は「将来、認知症になるのは怖い」と考えているという。

 その恐怖の根源は、第一に「元の状態には戻れない」ということにある。ゆえに「治る認知症」と聞くと、耳を疑う人も多いのではないだろうか。

 忘れっぽくなる。気力が低下して行動的ではなくなる。歩き方がおかしくなる――。これらはたしかに認知症に見られる典型的な症状であり、医師も周囲も、たいていはふつうの認知症として対処する。しかしその中には「治る認知症」が含まれているかもしれず、該当する患者は40万人に上る可能性もあるという。

 認知症専門医である、医療法人ブレイングループ理事長の長谷川嘉哉医師が解説する。

「記憶力が低下したり、ぼーっと無気力になったり、動きが緩慢になり足元もおぼつかないといった症状が出るため認知症と誤診されやすい疾患があります。きちんと鑑別されないため、たいていはアルツハイマー型認知症とされてしまう。しかも、そのまま間違った治療を受けることで、本当の認知症になってしまったケースも見受けられます。

 現在、全国に462万人の認知症患者がいるとされていますが、1割近くが、この『治る認知症』だと考えられています」