甲状腺検査はあまり実施されていない
認知症にはアルツハイマー型、脳血管性、レビー小体型、前頭側頭型の四大認知症がある。中でもアルツハイマー型は全認知症の約6割を占めている。
これらには含まれないが、認知症と同じような症状が出て、それゆえ認知症と誤診されやすいが、実は手術や投薬などで回復する病気――。「治る認知症」といわれるゆえんだ。
その一つが、甲状腺機能低下症だ。首の根元近く、気管の前にある甲状腺は、ホルモンを産生・分泌する臓器。何らかの原因で甲状腺ホルモンの分泌力が低下すると、顔や足などにむくみが出たり、抜け毛が増えたり、体がだるい、急な体重増といった症状が出る。
「高齢者はこうした典型的な症状が出ず、認知機能低下が目立つ場合があります。そもそも甲状腺機能低下症の症状は、高齢者の加齢による症状とも似ています。むくみは顔、特にまぶたなどに出ますが、それがむくみなのか、もともとそういう顔だったのか初診では判断がつきません。したがって認知症専門医なら必ず初診時に血液検査を行い、甲状腺ホルモン値をチェックします。実際、認知症を疑われた人から驚くほど低い数値が出ることもある。甲状腺ホルモンを補充することで、症状は改善します」(同前)
実はこの甲状腺機能低下症の検査は、医療現場ではあまり実施されていないという現実がある。
2018年7月、一般財団法人・医療経済研究機構から認知症患者における甲状腺機能検査実施率についての研究結果が発表された。
研究を行った医師の佐方信夫氏(現・筑波大学准教授)がこう話す。
「日本では、85歳以上のお年寄りの17%にアリセプトなどの抗認知症薬が出されているという報告があります。しかし私は在宅医療も担当していますが、本当に抗認知症薬が適用されるべき患者さんなのか、疑問に思う場面もある。
高齢で記憶力などの認知機能が落ち、元気がなくなっていたら『認知症ですね、まずはお薬を出しておきましょうか』となってしまい、きちんと原因が鑑別されていないのではないか。そこで認知症と診断する際、きちんと甲状腺機能低下症についてのスクリーニングがなされているかどうかを調べました」