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認知症の薬が命に関わる

 また、高齢者の脳には小さな梗塞がいくつかあり、ワーファリン、アスピリンといった抗血栓薬、抗凝固薬を服用している人も多い。どうしても出血しやすくなるためリスクが高くなる。普段から、引っかかって転びやすいカーペット端やコードはないか、大きな段差がないかなど、家の中の環境にも気をくばる必要があるだろう。

 この病気が恐ろしいのは、忘れた頃に症状が出始めるということだ。

「“慢性”とあるように、急な大量出血は起こさず、じわじわと出血していき血腫が大きくなります。症状も数カ月経った頃に出るので、本人が頭をぶつけたことを忘れているケースも多い。聞かれて初めて思い出す方もいますが、要はその程度の外傷でも起こるということです」(同前)

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 その結果、脳の表面が圧迫され、記憶が曖昧になったり、物忘れが激しくなり、無気力になるといった認知症のような症状がでてくるのだ。頭痛など、出血に伴う他の症状はそれほど出ない人も多いという。

 症状が現れるのが遅いため、慢性硬膜下血腫とは気付かれずに認知症と誤診されるケースが多い。そのまま認知症薬などを飲み続けていると、命に関わる可能性もあるという。

「放っておけば血腫がじわじわと大きくなります。脳は硬い頭蓋骨に囲まれているため、圧迫され続けると行き場がなくなり、下部、脳幹の方へ押し出されるという脳のヘルニアが発生します。ここは呼吸や血液循環などを司る中枢神経が集まっているので命に関わる。認知症と誤診して放置されていると、最悪のケースでは植物状態になってしまうのです。きちんと頭部のCT検査をすることが重要です」(同前)

 慢性硬膜下血腫が見つかった時は、どのような治療が必要なのか。

「穿頭洗浄術、穿頭ドレナージ術といった手術が必要になりますが、脳外科手術としては比較的簡単な部類に入ります。あくまで脳の表面に出血しているので、頭蓋骨に穴を開け、溜まった血液を抜くだけ。一週間程度で退院が可能です。退院する頃には認知機能も回復しているはずです」(同前)