「俺たちも何だかわからなかった」
早速、もっとも気になっていた「謎」をぶつけてみた。
「OSOが7頭もの牛を襲いながら、1頭も食わなかったことがありますよね。あれは牛を傷つけて、ハンティングを愉しんでいるからだ、というのは本当ですか?」
すると藤本は「確かに最初、そこは大きな謎だった」と応じた。
「食うために襲うんだったら、よくわかるんだ。でも食ってない。その話だけ聞いたときは、俺たちも何だかわからなかった。『このクマ、どっかおかしいんじゃねえのか?』とも思ったけど、実際に現地に行って現場をしっかり確認することによって、いろんなことがわかった。その謎も解けた。結論からいうと、愉しみのために襲ってたわけじゃない」
この「謎解き」については後述するが、まずはその前提として藤本らがOSO対策に関わるようになった経緯を簡単に説明しておく必要があるだろう。
「部外者」から「特別対策班」へ
というのも藤本らの住む標津町とOSOによる被害が相次いだ標茶町は約70キロ離れており、車で1時間余りかかる。通常、ヒグマの有害駆除は現場の自治体の委託を受けて地元猟友会があたる。OSOの場合は、当初標茶町の猟友会が中心となって箱ワナによる捕獲が試みられ、藤本らは基本的には部外者だった。
もっとも標茶町においては過去にヒグマの有害駆除の実績がほとんどなかったため、これまでに300頭以上の捕獲実績のある藤本らもアドバイザー役として最初の被害が出た直後に標茶町には入っている。藤本は「箱ワナの設置の仕方とかエサの置き方とかは伝えました」と言うが、この時点では、対策の中心はあくまで地元猟友会であり、藤本らにも遠慮があったようだ。また当時、標茶の鉄工所でOSO対策として大きな箱ワナを製作中という話もあり、「あ、したら、もう獲れるな」と藤本らは早々に標茶町から引き上げていた。
だが案に相違して、OSOは捕まらない。人間の思惑を見透かすように罠をたくみに避けながら、真夜中に次々と牛を襲っては、明け方までには姿を消す。牛を集中的に襲うのは7、8月までで、その後は痕跡さえ残すこともなく、雪に閉ざされる冬を迎えて時間切れ……の繰り返し。時間が経てば経つほど、事態の解決が難しくなることは明らかだった。
OSO18が人間社会に現れてから3度目の冬を終えようとする2022年2月、ついに北海道庁は藤本らのチームを「OSO18特別対策班」に任命した。
現場となった標茶町と厚岸町の面積を合わせると東京23区の約3倍になる。その広大な土地から1頭のヒグマを探し出す前代未聞の挑戦が始まった。
(#2に続く)
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