2023年、文春オンラインで反響の大きかった記事を発表します。社会部門の第1位は、こちら!(初公開日 2023年10月21日)。
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“隧道”という言葉をご存知だろうか。
隧道とは、人やインフラが地下を通過するための土木構造物、分かりやすくいえばトンネルのことだ。国土交通省のサイトには
トンネルと隧道(ずいどう)の呼称については、呼び方に違いはありますが、同じ意味であり、違いはありません。古くは、「隧道」と呼ばれていましたが、最近では、一般的に「トンネル」と呼ばれることが多くなっているようです。
と記載されている。
たしかに一般的には古くからあるものを隧道、戦後以降に造られたものをトンネルと呼ぶ傾向があるものの、明確な線引きは存在しない。とはいえ、トンネルよりも隧道と聞いたほうが、どこか古めかしく感じるのは間違いないだろう。
私は、トンネルよりも隧道に惹かれる。隧道という言葉は時代に取り残されてしまった感があり、自分自身と重なるものを感じているのかもしれない。
静岡県掛川市の“名もなき隧道”
この日、私は隧道を求めて静岡県掛川市を訪れていた。
一口に隧道といっても、天城山隧道のように石造りで立派な隧道ばかりではない。生活がより便利になるようにと、地域の住民が自分たちだけで掘った簡素で小さな隧道も日本中に存在しているのだ。そんな名もなき隧道が見たくて、私は住んでいる岐阜から静岡までやって来た。
事前に得た情報をもとにおよその位置を割り出し、車を停めて周囲を捜索する……。しかし、簡単には見つからない。現在は使われていない隧道ということで、隧道に繋がる道路すらわからないときた。
周囲を何度も行ったり来たりするものの、なかなか手がかりがつかめない。
最終的に進んだのは、“道には見えない”けど“ここしか可能性が残っていない”草むらだ。