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近隣に住むお婆さんから「やめといたほうがええ。命にかかわる」と声をかけられながらも…静岡県の山中にある“名もなき隧道”を探索してきた――2023年読まれた記事

2024/01/07
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隧道がコンクリートで塞がれたワケ

 地図を確認すると、隧道を抜けた先にはリゾート施設がある。隧道をそのままにしておくと施設内に入ってしまうため、塞がれたのだろう。この日の探索はここまでとなったが、素敵な隧道のみならず、マムシ除けのレクチャーをしてくれたお婆さんとの出会いなど、とても印象深い一日となった。

2つ目の隧道はコンクリートで塞がれていた

 後日、昔の地図を調べてみると、1920年代の地図にこの道の表記があった。地図上では片側は実線、もう片側は破線で描かれている。村道であることを示している。現地で見た道幅や地図の表記を見る限り、車両も通行できたようだ。

 さらに驚くのは、2つ目の隧道の先に3つ目の隧道が存在したことだ。その先にも村道は続き、山の中を貫いて隣の集落まで続いていた。

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 1974年にはリゾート施設が完成しており、この頃までに村道は廃止されたと思われる。この時、3つ目の隧道は切り崩され、消滅してしまったようだ。

 いったいなぜこれらの隧道は掘られたのか。なぜ村道が造られたのか。

 さまざまな文献を調べてみたが、これといった情報を見つけることは出来なかった。道が造られた経緯や、当初から村道だったのか、隧道の名称すら分からない。建設から100年以上、廃止から50年前後が経過している。役所には文書の保存期間があるし、町村合併等で過去の資料は大部分が失われてしまっているのだ。

 そのため、この先は私の推測になるが、村道は集落を結ぶための移動としてはもちろん、山に入るためにも重要な道だったのではないだろうか。当時は山林から薪や炭を調達するなど、山は生活のために必要不可欠な存在だった。また、地図を見ると山あいに畑の表記もあり、当時の人たちにとっては暮らしに欠かせない道であったに違いない。

 それが時代の流れとともに集落を結ぶ大きな道路が完成し、みな車でそちらを走るようになった。また、生活様式の変化に伴って山に入る必要性も失われ、村道は徐々に使われなくなってゆく。そして、開発によってとどめを刺され、ついに廃道となってしまったのではないだろうか。

 全国には、こうした隧道が数多く存在している。ここと同じように、記録が全く残っていない、もしくはほとんど残っていない隧道も多い。私は今後も隧道を巡り、誰がどのような目的で造り、使われていたのか。当時の姿を想像し、楽しんでいきたいと思う。

2023年の読まれた記事「社会部門」結果一覧

1位:近隣に住むお婆さんから「やめといたほうがええ。命にかかわる」と声をかけられながらも…静岡県の山中にある“名もなき隧道”を探索してきた
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