東北地方の国道をドライブしていた時のこと。周囲を見渡していると、異様な光景が目に飛び込んできた。大きな橋がポキっと直角に折れて、落ちてしまっているのだ。あまりにも衝撃的な光景に、私は思わずUターンしていた。
引き返すと、落ちた橋を見学するためのスペースが設けられていた。そこには“祭畤(まつるべ)被災地展望の丘”と書かれている。衝撃的な見た目のあの橋は、祭畤大橋というらしい。
鉄製の橋桁が直角に折れ曲がり…
展望の丘からは、橋をじっくりと眺めることができた。鉄製の橋桁が直角に折れ曲がり、片方は地面に突き刺さっている。橋桁には錆が浮き、時間の経過を感じさせる。あまりにも現実とかけ離れた光景は、霧が出ていたことと背景が砂防ダムのダム湖であることも相まって、幻想的にさえ思えた。
そもそも、私がなぜこの場所を通りがかったのかというと、“酷道”を求めてドライブしていたからだ。国道と聞くと整備が行き届いたいわゆる“良い道”を想像する方が多いと思うが、なかには落石が転がり、崖下に転落寸前という状態の国道も存在する。そんな状態が酷い国道のことを“酷道”と呼び、前時代的な国道の姿に哀愁や興味を覚える愛好家も少なからず存在する。私もそんな酷道愛好家の一人で、自宅がある岐阜から酷道を求めて岩手を訪れていたのだ。
祭畤大橋がある国道342号は東北地方を横断する国道で、秋田・岩手県境付近に酷道区間が存在する。岩手から秋田に向かって酷道を目指して走っていると、架け直された新しい祭畤大橋から、あの落ちてしまった橋が見えたのだった。
道路マニアは、橋やトンネルを見かけると周囲をキョロキョロ見回す習性がある。それは、橋やトンネルが出来る前に使われていた旧道を発見するためだ。そうした様々な要因が重なり、祭畤大橋の遺構と出会うことができた。