映画館を一から立ち上げるのは大変な事業だが、継承していくのも大きな困難が伴う。曾祖父が71年前に開館したメトロ劇場を切り盛りする根岸さん姉弟はふたりとも東京で会社員として働きながら、月に数回、福井に通うという兼業形式で経営に携わっている。24年3月には北陸新幹線が福井にも延伸され、東京との往来は便利になるが、片道約3時間かかる。映画館経営は副業だから、会社の出張手当はもちろん支給されない。

開館70周年を記念して作成した硬券の入場券 ©芦部聡

給料なし、交通費は自腹「とにかく時間が足りない!」

「メトロ劇場から給料はもらってないし、交通費も自腹です。本業でも重要なプロジェクトをいくつも抱えてるのに、番組編成のために時間をやりくりして毎晩のように試写を観なくちゃいけない。毎月1回はイベントをやっていますが、トークショーの登壇者の出演交渉など準備もある。映画は大好きですけど、正直つらいです…。とにかく時間が足りない!」

二人三脚でレガシーを受け継ぐ。お母さんがカウンターに立つこともあるとか ©芦部聡

「ズルズルここまでやってきました(笑)」

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「メトロ劇場を今後どうするかという話をする機会もないまま、16年に3代目の父が急逝したんです。数カ月先まで上映スケジュールが決まっていたので、とりあえず姉弟ふたりで運営を続けながら、おいおい先のことを考えていけばいいやと、ズルズルここまでやってきました(笑)。でも、閉館するという選択肢は思い浮かばなかったなあ」