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――狂児の感情を抑えることで、より聡実くんの思いや行動が浮き上がってくることを狙ったのでしょうか。

 狂児だけでなく、学校や自宅、聡実くんのまわりの世界は淡々と変わらない。それが聡実くん自身の変化の過程を引き立たせています。聡実くんだけが、シーンを重ねるごとに感情の動きが激しくなっていく。

 象徴的なのは、原作にはない「映画を見る部」のシーンです「映画を見る部」の栗山くんは最初から最後までまったく感情の波が変わりません。一方で「映画を見る部」を訪れる聡実くんは、どんどん自分の感情をコントロールできなくなっていく。登場人物やシーンのすべてが、聡実くんの成長と変化を描くものとして健やかに配置されています。

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その時々で感じる想いを大切にしてほしい

©2024『カラオケ行こ!』製作委員会

――聡実くんの後輩・和田も、自分の感情を素直に爆発させる中学2年生という設定で、聡実くんや狂児の表情をより効果的に彩りました。

 和田の感情が聡実くんにインフルエンスして、最後に聡実くんが感情を爆発させるのは、ある意味とても「青春」で美しかったです。

――「齋藤潤くんの青春ドキュメンタリー」ともおっしゃいました。

 山下監督はじめ、本作の現場には、『齋藤潤が生きる岡聡実をどれだけ魅力的に届けるか』という想いが集結していました。潤くんはプレッシャーも大きかったと思いますし、悩んだ事もあったと思いますが、10年後彼がこの映画を振り返り観たときに、「もっとこうすればよかった」という後悔ではなく、みんなで気持ちをひとつにして、育み、映画を作った。そんな体感を、現場を思い出していただければ、この作品を映画化した理由がひとつ結実するのだと思います。

――本作は、聡実くんのボーイソプラノ、義務教育の終了、古いヤクザの解体、変わる町並みなど、「消えてゆく」ものにも焦点をあてています。綾野さんはご趣味で写真を撮られますが、失われていくものへの思いを残すために、人は写真を撮ったり、記録に残したりするのでしょうか。