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「ほんまかいな。杉さんが息子になってくれるんか」伊藤忠“中興の祖”が杉良太郎に見せた孤独な素顔

2024/02/04
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 親子の契りを交わしてから、僕は毎晩、お父さんに電話するようになった。お母さんによると、お父さんは帰宅後、電話の前で待ち構えていたらしい。いつもワンコールで出るんだ。

「お父さん待ってた?」

「ああ〜、電話、待ってたよぉ!」

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越後正一 ©共同通信社

 お父さんとはお互い仕事の話をしたことはない。僕らの会話はたわいもない内容ばかりだった。携帯のない時代だったから、1度、撮影で電話が出来ない日があったんだけど、お父さんは3時間も電話の前で待ち続けて「今日は電話がないなぁ」とガックリしたまま床についたらしい。それをお母さんから聞き、何があっても絶対に毎日電話しようと誓った。

「お父さん」の孤独

 お父さんは常に秘書や部下などたくさんの人に囲まれていたけど、僕が「お父さん」って肩を抱いたりすると、秘書が「会長に馴れ馴れしくするな」とばかりにこっちを睨むんだよ。でも、お父さんは大勢の人に囲まれていても心は満たされていなかったんじゃないかな。僕は、お父さんにとって、その穴を埋める存在だったのかもしれないね。

 財界の大物は皆孤独だよ。権力や富を利用しようと近づく輩が大勢いるから警戒もするだろうし、おべっかを使う人間はいても、本音を言う人間はほとんどいない。コクヨの会長だった黒田暲之助(しょうのすけ)さん(2009年没、享年93)には、亡くなる直前に「みんな損得勘定でしかものを言わないから、杉さんだけは子供らに本当のことを言うたってな」とよく頼まれたぐらいだからね。相手が誰であれ態度を変えず、本気で向き合う人間のほうが信頼できると感じてくれたんだろうな。だからこそ、みんな心を開いて付き合ってくれたんじゃないかと思うんだ。

本記事の全文は「文藝春秋」2024年2月号と「文藝春秋 電子版」に掲載されています。杉良太郎氏の連載「人生は桜吹雪」全回は「文藝春秋 電子版」で読むことができます。

 

■杉良太郎 連載「人生は桜吹雪」
第1回「安倍さんに謝りながら泣いた」
第2回「住銀の天皇の縋るような眼差し」
第3回「江利チエミが死ぬほど愛した高倉健」 

「ほんまかいな。杉さんが息子になってくれるんか」伊藤忠“中興の祖”が杉良太郎に見せた孤独な素顔

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