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80歳の時には「週刊文春」記者とミット打ち

 2020年7月、記者はコロナ禍にノーアポで山根氏の自宅を訪ねた。すると黒塗りのトヨタ・センチュリーからトレードマークの中折れ帽とサングラス姿で降り立った山根氏は、記者を快く自宅に招き入れてくれた。

 山根氏は前出の大阪府立体育館での試合後、肺結核を患い、16歳でプロボクサーの引退を余儀なくされているが、当時のことをこう振り返った。

ファイティングポーズを決める山根氏

「外をウロウロしてはいけないし、1年間寝込んだけど、『絶対死なない!』『生き抜く!』『死にたくない』とずっと独り言を言っていました」

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 そして、新型コロナウイルスについて、このようなメッセージを発したのだった。

「今現在、全世界の人が苦しんでるんですから、根性で辛抱して耐えるしかありません。皆さんも意識のあるうちは生き抜く根性を持ってください」

 この日、記者は持参したグローブを山根氏につけて貰い、ミット打ちを行った。ジャブ、ジャブ、ストレートと繰り出すパンチは、当時80歳とは思えないスピードと力強さだった。

右ストレートを繰り出す山根氏

 だが20秒ほど打つと、「ハァ~、息が上がった」とトレードマークの帽子を脱ぎ、座り込んでスマホを眺めていた。

 その後は「食事はどうするんや?」。突然来訪したにもかかわらず、記者を行きつけの寿司屋や妻が経営するラウンジに案内してくれた。この日の面談は9時間にも及んだ。