2018年、相次いで起きたスポーツ界のトラブル。大相撲の暴力、アメリカンフットボールの日大の悪質タックルを生んだ部内構造、体操、レスリング界のパワハラと、前時代的な手法の矛盾が一気に噴出した1年だったといえる。

 退場すべき人は退場し、組織によっては新しいスタートを切った「スポーツ・ガバナンス元年」ともいうべき年だったが、日本ボクシング連盟も揺れに揺れた。

 79歳の山根明前会長が震源である。前会長のふるまい、次々と明らかになる暴言や、組織としてのガバナンスの欠如は、個人的には統括団体というよりも、「山根商店」という印象さえ持った。

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山根前会長 

 問題が発覚してから半年が経とうとしているが、テレビの情報ワイド番組ではいまも山根前会長をコミカルに取り上げるばかりで、そもそもどういった問題がボクシング連盟に起き、いまはどのような改革が進められているかという報道は、ほとんど目にしない。

 なにが問題で、なにを変えていくのか――。日本ボクシング連盟の新執行部をリードする内田貞信会長、菊池浩吉副会長に話を聞いた。

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きっかけは山根前会長の「メンツ」だった

 そもそも、山根前会長の様々な問題が明るみに出ることになったのは、日本ボクシング連盟と全国高等学校体育連盟ボクシング専門部(高体連)との軋轢が原因だった。

 数年前から両者の間には問題が生じていたのだが、その問題の根っこにあったのは山根前会長の「メンツ」だった。宮崎・日章学園でも指導に当たる菊池副会長は、経緯をこう振り返る。

「ことの発端は、インターハイでの挨拶の順番です。インターハイは高体連の主催大会ですから、開会式の挨拶を高体連のボクシング部門の会長が行い、閉会式で山根前会長が挨拶するという棲み分けが出来ていました。ところが、数年前から前会長は開会式の挨拶にこだわるようになり、そこから高体連とボクシング連盟の関係がこじれていき、大会運営に妨げが出るようになっていました」

 それだけではなかった。2017年には、日本体育協会(現・日本スポーツ協会)の評価により、ボクシング競技は国体で隔年開催に格下げされた。強化現場にとっては、大問題である。格下げの理由は、大会運営、ジュニア育成など統括団体のガバナンスに関する評価が著しく低く、指導者はボクシング連盟の正常化による毎年開催への復帰を強く望む声が高まっていた。

正常化のために直談判すると……

 しかし、山根前会長の体制下では遅々として改革は進まない。そこで2018年4月、宮崎県ボクシング連盟会長だった内田氏は、山根前会長のもとを訪れ、ボクシング連盟の理事会メンバーを入れ替えるなど、正常化のための具体案を提示した。

 内田会長は当時の様子をこう振り返る。

「連盟の理事会は議論する場ではなく、前会長の“通達”の場でした。私としては、連盟が他の競技団体と同じように正常に運営されるようになるため、菊池先生をはじめとした現場の声を理事会に反映できるよう、山根前会長に申し入れをしました。実際、菊池先生のところには電話で前会長から話があったようです」

 4月の時点では、数か月後に内田氏が会長職に就くような「クーデター」を企図していたわけではなかった。

「会長に退いてもらうとか、そうした意図はありませんでした。会長の体制下であってもボクシング連盟が正常化し、国体の開催や、選手の強化、公明正大なジャッジが実現できればそれでよかったんです」