「利益誘導」と「競技の公平性」を問題視
国体の問題ばかりではなかった。山根前会長は、ボクシング連盟の公の仕事と、自分の周囲の仕事をないまぜにして、「利益誘導」と受け止められかねないことも平然と行うようになっていた。
公式戦で使用できるボクシング・グローブは、山根前会長と縁の深い人物の会社を通じてしか購入できない仕組みを作っていた。また、海外遠征に出発する際は関西国際空港を利用するように旅程が組まれたが、スケジュールには、出発前日に前会長の身内の飲食店で「壮行会」を開き、そこで遠征の参加者は2万円の会費を払うことになっていた。
そうしたことばかりではなく、競技の公平性も問題視されていた。流行語大賞にもノミネートされてしまった、いわゆる「奈良判定」と呼ばれる不正判定だ。現場の関係者は、国体ばかりか、このままでは東京オリンピックも迎えられないと判断、6月に行動に移す。
舞台は、LINEだった。
LINEがボクシング界を変えた
内田氏が直談判した後も、ボクシング連盟が正常化する気配は見られなかったため、主だったメンバーは、プロボクシングのジム会長やオリンピックのリングで戦った元選手などを含めたLINEグループ、「日本ボクシングを再興する会」を立ち上げる。
このグループには、アッという間に全国の関係者から様々な情報が寄せられるようになる。文字だけの情報だけでなく、衝撃的な音声が寄せられもした。
2016年のリオデジャネイロ五輪代表の成松大介は、強化資金である240万円をボクシング連盟の幹部から不正に分配するよう指示を受けた音声が公開された。そしてまた、不正判定には会長本人だけでなく、会長の側近たちが関わっていた音源も発見された。
この時期はちょうど、日大のアメフト問題が取り上げられていた時期で、ガバナンスが大きく問われていた。これが「再興する会」には追い風になった。
菊池氏は、LINEが大きな流れを作ったと実感している。
「LINEのグループは、500人以上は入れないことをその時知りました。それでも収まらないので、第2グループを作ったほどです。面白いと思ったのは、前会長派とみられる人物が、グループに入って情報を確認していくと、退会していくんですよ(笑)。あ、情報を取りに来ているな、と。それでも気にしませんでした。相手陣営を揺さぶる意味でも、どんどん情報を集めていったんです」
機は熟した。