「目障りだ。出ていけ!」
「まさか、ああいうプレーをするとは予想できなかった」
「私は歴史に生まれた歴史の男」
これだけ読むと、一体どこのどなたの人の発言かと思ってしまうが、この半年間で明らかになった、アマチュアスポーツ界“指導者側”の発言である。
「公」より「私」の人
1つ目の発言は、栄和人日本レスリング協会強化本部長(当時)。自分の“お気に入り”ではない伊調馨選手を指導するコーチを罵倒したときのものだ。
2つ目は日本大学アメリカンフットボール部の内田正人監督(当時)の逃げ口上。
3つ目は、日本ボクシング連盟の山根明会長(当時)が堂々と語った「自己イメージ」だ。
栄氏、内田氏、山根氏は当初、「自分の責任ではない」と公の場で堂々と述べていた。だが、次々と不正が明るみに出て、もう逃げられないという段階まで追い込まれると、あえなく職を辞した。
権力を持つリーダーが弱い立場の人間に対して嫌がらせを行なう。自分の思い通りにならないと怒鳴り散らす。普通の人は恥ずかしくて言えないことを平気で口にする――こういったことがアマチュアスポーツ界ではまかり通っていた。
彼らに共通していたのは、選手や組織のことは二の次という姿勢だ。要するに「公より私」の人が組織を牛耳っていたのだ。
東條英機との共通点
かつて日本には、彼らに似たタイプが数多く存在した組織があった――戦前の陸海軍である。
ノンフィクション作家の保阪正康氏は言う。
「例えば、東條英機は、組織を束ねる立場にありながら、個人的な好悪の感情を優先させ、自分の意向に従わない人物は容赦なく排除してきた」
平然とウソをつく、白を黒と言いくるめる、失敗すると居直って部下に責任をなすりつける――旧日本軍ではそういったタイプの人間が要職に就いていた。
「文藝春秋」10月号「昭和の軍人に見る『日本型悪人』の研究」では、保阪氏が、東條のほか、インパール作戦の牟田口廉也、ノモンハン事件の辻政信、大本営参謀の瀬島龍三らと、現代の霞が関やアマチュアスポーツ界のリーダーとの類似点を分析している。
白を黒と言いくるめる、失敗すると居直って責任をなすりつける――。あなたの周囲に、そんな上司はいませんか。