松島 私にとって一番大事なものは母でした。その母が亡くなったんだから、もう何もいりません。火葬場でお骨になった母を見て、「死ぬとは、こういうことなんだ」と感じました。いくらあれが欲しい、これが欲しいと思っても、あの世には何ひとつ持っていけません。じゃあ何もいらないな、と。ここからまた新しい自分を始めようと思っています。それに、新しい家に来てみたら、すごく楽しいんですよ。コンビニに行ってみたり、毎日が初めてばかり!
バナナを食べて捨てたら、翌日もゴミ箱に皮があるんですよ。今までは片付ける人がいたから、そこにゴミがまだ残っていることに「えっ?」と。「なんだこりゃ、私が片付けるんですか?」と思わずバナナの皮に話しかけました。あとは最近のお風呂って、「お湯が沸きました」とかしゃべるでしょう? 「見りゃわかる!」って怒鳴ったりして、1人でも賑やかに楽しくやっています。
相変わらず家事はちっともできませんが、電子レンジを駆使すればまぁなんとかなる。母の死は今も堪えているし、全然乗り越えてなんかいませんが、一人暮らしはおもしろい。今までの人生も結構おもしろかったですが、これからまた楽しいことがいっぱい始まりそうだとワクワクしています。だから、同じお年を召した方々に「たとえ1人になって境遇が変わろうと、怖くはないですよ」とお伝えしたいですね。
本当に戦争はいかんのだ
――「境遇が変わろうと、怖くはない」と言える人生を歩めたらいいなと憧れます。
松島 私みたいな人生はおやめになったほうがいいと思いますよ(笑)。私の人生というのは、「頼るべき人を戦争で亡くしてしまったら、どうやって生きていくのか」というあの頃の日本人の見本のようなものですから……。
――近年は、ロシアによるウクライナ侵攻、ガザ紛争と、悲しいニュースが続きますね。
松島 私は生まれてから10か月間、陽の光を浴びずに育ちました。当時の満州では、日本人女性がいると知られたら危険なので、窓に紙を貼って家の中を隠していたんです。そして一緒に満州から引き揚げた子どもたちのうち、生き残ったのは私ともうひとりだけでした。戦火から逃げる子どもをニュースで目にすると、「あれが私だったんだ」と涙があふれてきます。自分が生きている間にまた戦争が起きるだなんて想像もしていませんでした。
もしかしたら残留孤児になっていた可能性もあるし、我ながら数奇な運命をたどってきたものだと思います。本当に戦争はいかんのだ、とあらためて感じますね。
INFORMATION
日時■2024年7月19日(金)13:00開場/13:30開演
場所■成城ホール
入場料■前売・当日共 4500円(全指定席)
(チケット発売日は5月10日(金)を予定してます)