「接地した直後に、一瞬何かが見えた。何かがすっと通るような違和感を覚え、強い衝撃があった。その後は、いろいろ操縦操作をしても反応はなく、機体は滑走路上を滑っていく感じで、滑走路右の草地に突っこんで止まった」
1月2日に発生した羽田空港の衝突事故。379名を乗せたJAL機が滑走路上で突如、炎上する映像は、前日に発生した能登半島地震の被害も明らかになっていない中、国内外に衝撃を与えた。
冒頭で紹介したのは、取材で明らかになったJAL機機長の証言を整理したものだ。このような重大事故にもかかわらず、一人の犠牲者も出さず、集団パニックも起こさず乗客全員が生還できたのは何故なのか。
この“奇跡の脱出”が可能だった理由を探る詳細なレポートを、ノンフィクション作家・柳田邦男氏が「文藝春秋」3月号に特別寄稿した。
柳田氏といえば、1966年の全日空羽田沖墜落事故を皮切りに相次いだ航空機事故を分析したベストセラー『マッハの恐怖』の筆者として知られる。その後、半世紀に渡って航空事故の取材を続けてきた。
CAたちが語った経験とは?
そんな柳田氏が、全員脱出を可能にした「条件」として思い当たったのが、JALの乗務員に広がっていた「安全の層」の厚さだった。
柳田氏は昨年11月、JAL安全アドバイザリーグループの活動の一環として、12人の客室乗務員にヒアリングを行っていた。それまでのフライトのなかで経験したトラブルなどとともに、それが自身の安全意識にどのように影響しているかを聞き取るものだった。
柳田氏のヒアリングの中で、先任CAの山田さん(仮名)は、乗客が全員搭乗してドアをロックした後に「ドアが半閉まりじゃないか?」と感じて、判断に迷った経験を語っていた。
〈《定時運航と安全のどちらを採るか》。山田さんは一瞬、その問いが頭のなかをよぎったが、答えは絶対に「安全」だった。山田さんがドアを閉め直すと、整備士がドアロックを点検してくれて、「ロックに異常なし」と言ってくれた。