「ネガティヴ・ケイパビリティ」を持つためには…
――隙間時間を埋めていくのに慣れてしまったことは実感します。そういえば何もせず、ボーッと過ごすことがなくなってしまったような気が……。
谷川 そうですよね。何も考えずボーッとしたり、または結論を急がず物事をじっくり心ゆくまで考えたり、よくわからないがモヤモヤした気分を抱えたまま過ごすような時間を、多くの人は失いつつある。
すぐには説明をつけがたい事柄に対峙して、わからないまま留めながら、関心は放棄せず咀嚼し続ける力を「ネガティヴ・ケイパビリティ」と呼ぶのですが、常時接続時代を生きる現代人はこの能力がかなり薄れてきているように思います。
「ネガティヴ・ケイパビリティ」の力がないと、どうなるか。まず、他者や自分の感情に対する解像度の高い理解が難しくなります。人が背負っているものや感情や振る舞いは、必ずしも、そう簡単に理解ができるとは限らない複雑さや多面性を持ちます。手頃な共感の言葉ではとうてい間に合わないとき、相手のことを考え続け、すこしずつ理解を深めていくモヤモヤした時間がどうしても必要なはずです。
こうしたモヤモヤ時間を持つ、「ネガティヴ・ケイパビリティ」を持つためには、「孤独」が必要です。孤独とは、マルチタスクから切り離された状態で、自分自身のほかに誰もいない状態のことです。そこで私たちは、自分自身と対話をしています。「ネガティヴ・ケイパビリティ」は、孤独の状態でしか養えません。常時接続して外部の情報を細々と摂取し続けるばかりだと、ちゃんと一人きりになって物事を考えたり、自己に意識を集中することができないからです。
「ネガティヴ・ケイパビリティ」が衰えると、他者のことをしっかり理解できないので、人と深い関係を築けなくなりますし、自分の感情が見えなくなるので、自分との関係に綻びがでるかもしれません。いまの時代こそ、マルチタスクから距離をとって意識的に「孤独」を確保し、「ネガティヴ・ケイパビリティ」を身につける必要があるのだと思います。
――常時接続時代にはエンターテインメントのかたちも、マルチタスクに適したものへとどんどん変化・進化している気がするのですが。