『ネガティヴ・ケイパビリティで生きる 答えを急がず立ち止まる力』(共著)、『スマホ時代の哲学 失われた孤独をめぐる冒険』などの著作や研究・教育活動を通して、現代人の生きる道を探求しているのが哲学者の谷川嘉浩さんである。

 スマホやSNSにどっぷり浸かり思考が短絡・単純化している私たちに、そこから抜け出すための「考えるヒント」を指南してもらおう。

マルチタスク時代のメリット・デメリット

――スマホその他のデバイスを肌身離さず携えることで、テクノロジーを通してつねに他者や情報とつながっているのが、現在の私たちの生活です。そんな常時接続状態は、人の生活や考え方にどんな影響や変化を生じさせているでしょうか。

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 谷川 明らかに言えるのは、私たちがマルチタスクをこなすようになったことですね。いまはだれでも、いろんなことを同時にするのが当たり前になっています。おしゃべりしながらメールを返信する、食事しながらテレビや動画を観て合間にSNSも覗く……。二つや三つくらいは皆、つねに同時並行じゃないですか?

 ただし厳密に言えば、私たちがしているのは本当のマルチタスクではありません。一つひとつの事柄にごく短い時間意識を向け、すぐ次のものへ、そしてまた次へ……と、あわただしく切り替えているだけです。いわばいろんな食べ物をちょっとずつ、つまみ食いし続けているようなもの。意識や注意が細切れになって分散してしまっているのです。

 そうした状態を維持するには、目の前のことに対してとにかく素早く判断を下し、どんどん次のタスク先へ進まなければいけません。「これは好き」「そっちは興味なし」と適当にラベルを貼って物事を高速処理していく。会話だって「ここはだいたいこんな返しかな」と、テンプレートを当てはめたような答えを口にして済ませる。熟考している暇などありませんから、そうする以外に方法がないのです。