累計2700万部を突破し、1月に公開された実写映画も大ヒットを記録する「ゴールデンカムイ」。アイヌの伝統的文化を扱った同作は、そのエンターテイメント性の高さはもちろん、緻密な取材によって裏打ちされたリアリティも各方面から評価を受けている。

 ここでは、「ゴールデンカムイ」でアイヌ語監修を務めた中川裕氏の著書『ゴールデンカムイ 絵から学ぶアイヌ文化』(集英社)の一部を抜粋。衣装デザインに隠されたキャラクター設計の秘密に迫る。(全2回の1回目/後編を読む)

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アシㇼパの衣装

 アシㇼパは初登場時以来、最後までほとんど同じ格好をしていました。一番上にはレタㇻの母親の毛皮からウイルクが作ったという外套をはおっていましたが、その下に着ている上衣は、最初のうちはアットゥㇱということになっていました。コミックスのカバーを外すと、毎回アシㇼパがいろいろなアイヌ衣装を着てファッションショーをしていますが、その記念すべき第1巻で、自分の着物を着て立っている脇に、「アットゥㇱ(樹皮衣)オヒョウという木の繊維で織られた衣服」と説明されています(31刷以降は下線部分は消えています)。

1巻本体表紙 ©野田サトル/集英社

 5巻47話で、アシㇼパ自身「私の着物はオヒョウの樹皮を編んだものだ」と言っていますので、少なくとも彼女はそう思っていたのでしょう。

 ところが、第2巻のカバーでこの服の色がはっきりわかった時点で、いやに真っ白な色合いなのが気になりました。

2巻表紙 ©野田サトル/集英社

 オヒョウで織られた布は、もっと赤茶けた色になるはずです。そして19巻181話で、アシㇼパと邂逅したソフィア・ゴールデンハンドが、それがウイルクが子供の時に着ていたテタラペと呼ばれるものであることを彼女に伝えます。

 テタラペというのは、イラクサという植物の繊維で織られた布で作られた服で、樺太独特のものです。テタラペはテタラ「白い」ペ「もの」という意味で、イラクサで織った繊維はオヒョウニレなどと違って真っ白になるので、こう呼ばれていました。

19巻181話より ©野田サトル/集英社