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 取材班の前に現れた加害生徒たちの外見や声はどこにでもいる少年少女だったが、違和感を覚えたのはすべての加害生徒と保護者が、「イジメを行ったのは自分ではない」と答え、責任転嫁を図ったことだった。さらに、自身もよく知っているはずの身近な子が亡くなったのに、薄ら笑いを浮かべていた加害者がいたことに、正直、取材班は驚きを隠せなかった。

 関係者への取材を一通り終え、あとは記事を配信するだけとなった段階でも、取材班にはまだ決めかねていることが一つあった。

 爽彩さんの実名と写真を記事に載せるか載せないか、という問題である。

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遺族の強い意志

 実名を報じることで、亡くなった爽彩さんやその遺族たちをさらに傷つけてしまうのではないかという懸念があった。しかし、実名で報じなければ、この事件の輪郭がぼやけ、多くの人に受けたイジメの全貌が伝わらないのではないか。どちらにすべきかを遺族側とも何度も話し合ったが、結論は出なかった。

 最後は母親が悩んだ末、「爽彩が14年間、頑張って生きてきた証しを1人でも多くの方に知ってほしい。爽彩は簡単に死を選んだわけではありません。名前と写真を出すことで、爽彩がイジメと懸命に闘った現実を多くの人たちに知ってほしい」との強い意向を示した。取材班も、爽彩さんが受けた卑劣なイジメの実態を可能な限り事実に忠実な形で伝えるべきだと考え、実名と写真の掲載を決断した。

爽彩さんは地元を流れる「ウッペツ川」に身を投げたこともあった。地元の情報誌「メディアあさひかわ」(2019年10月号)は「自身の不適切な写真や動画を男子生徒によってSNSに拡散されたことを知った女子生徒が精神的に追い詰められ、橋から飛び降りて自殺未遂を図った」と伝えた ©文藝春秋

 4月15日に第一報となる記事が配信されると、多くの読者が事件の惨状に心を痛め、消えかけていた灯が世論を巻き込む形で大きくなった。そして、旭川市の教育委員会は新たに第三者委員会を立ち上げ、イジメの再調査が行われることとなった。しかし、その一方では、ユーチューバーなどがネット上で、事件とは無関係の人たちについてのデマ情報や、実名の“晒し行為”“誹謗中傷”を行った結果、新たな被害が生まれてしまうことになった。

爽彩さんが語っていたこと

「爽彩が死んでも誰も悲しまないし、次の日になったらみんな爽彩のことは忘れちゃう」

 生前、爽彩さんはこう母親に漏らすことがあったという。しかし、取材班は、爽彩さんの死をこれだけ多くの人が悲しみ、彼女のことを思い浮かべていることを知っている。

失踪直前に爽彩さんが友人へ送ったLINEメッセージ

 本書は、文春オンラインで配信された「旭川14歳少女イジメ凍死事件」の記事22本に加筆修正を加えて再構成し、さらに爽彩さんの母親による彼女と過ごした14年の日々を綴った手記を掲載したものである。

 心痛の中、取材に協力いただいた爽彩さんの母親、親族、支援者の方々に改めてお礼を申し上げます。

 そして、廣瀬爽彩さんのご冥福を心からお祈りします。

文春オンライン特集班

娘の遺体は凍っていた 旭川女子中学生イジメ凍死事件

文春オンライン特集班

文藝春秋

2021年9月10日 発売

【厚生労働省のサイトで紹介している主な悩み相談窓口】

▼いのちの電話 0570-783-556(午前10時~午後10時)、0120-783-556(午後4時~同9時、毎月10日は午前8時~翌日午前8時)

▼こころの健康相談統一ダイヤル 0570-064-556(対応の曜日・時間は都道府県により異なる)

▼よりそいホットライン 0120-279-338(24時間対応) 岩手、宮城、福島各県からは0120-279-226(24時間対応)