その言葉どおり、ここ10年、中山は以前にも増して新たな挑戦を続けている。日本に戻り、2015年末に音楽特番『FNS歌謡祭』への出演を皮切りに芸能活動を本格的に再開させると、翌年には東京・下北沢の本多劇場で上演された四人芝居『魔術』で初めて舞台作品に挑んだ。舞台にはその後もたびたび出演し、昨年末から今年初めにかけても、東京・明治座などで上演された『西遊記』で鉄扇公主を演じている。
映像作品でも新たな挑戦が続く。2017年にはドラマ『貴族探偵』で初めてドラマの鍵を握る脇役を演じている。映画では、『蝶の眠り』(2018年)で5年ぶりに主演し、アルツハイマー病で余命宣告をされた女性を熱演した。
近年の出演映画のなかでも異色なのが、2019年に公開された松尾スズキ脚本・監督・主演の『108~海馬五郎の復讐と冒険~』である。松尾は、前出の阿部サダヲや宮藤官九郎が在籍する劇団「大人計画」の主宰者でもある。
切り拓いた新境地
『108』で中山は松尾と熟年夫婦を演じた。劇中、彼女は年下のダンサーと浮気したのが夫にバレ、家を出てしまう。夫はそんな妻への復讐心からほかの女性と次々と関係を持つのだが、そこでの性描写はかなり激しい。それだけに中山美穂が出演したことに驚かされる。しかし、彼女は悲劇とも喜劇ともつかない松尾の独特の世界観をしっかりと受け止め、この役を見事に演じきり、新境地を感じさせた。
音楽活動にも積極的で、2019年には旧知のミュージシャンの浜崎貴司が主催する「GACHI」という対バン形式のライブに誘われ、ゲスト出演した。その際、弾き語りであることが条件だったため、ギターを約3ヶ月間猛特訓したという。同年には20年ぶりとなるアルバム『Neuf Neuf』をリリース、これを機に翌年、50歳を迎える3月1日にバースデーコンサートを開催するはずが、コロナ禍のため中止を余儀なくされる。お預けとなった単独コンサートは、ようやく昨年、24年ぶりの全国ツアーとして実現した。全国ツアーは今年も4月から予定されている。
「最終的に目指すのは…」
いまから四半世紀ほど前、憧れの女性像を問われた中山は、《最終的に目指すのは、素敵なおばあちゃん。かわいい、語りすぎない、家族の多い、そんなおばあちゃんになりたいんです》と答えていた(『anan』1998年1月2・9日号)。その思いは、活動再開後ますます強まっているようだ。4年前のインタビューでは、次のように語っていた。
《役を演じる上で、技術的な部分や熱量以外に、自然に滲み出る何かが、一番その人のオリジナルなんだと思う。だとしたら、年を重ねること、経験を積むことすべてがお芝居の肥やしになる。80歳ぐらいのおばあちゃんって、陽だまりの中で座っているだけででも、何かが見えちゃうじゃないですか。私もそういう豊かさが欲しいんです。年齢を重ねて、ちゃんと自分の“味”を出していきたい》(『週刊朝日』2020年1月3・10日号)
20代ではまだ漠然としていた“おばあちゃん像”が、さらに具体的なものになっている。それも仕事のみならずさまざまな人生経験を積んできたからこそだろう。