38年前の過去から現代へタイムスリップしてきた主人公の男が、自らの持つ昭和の価値観とのギャップに戸惑いながらも活躍を見せ、話題を呼んでいるドラマ『不適切にもほどがある!』(宮藤官九郎作、TBS系)。その第3話では、阿部サダヲ演じる主人公が、風呂上がりにバスタオル1枚だけで部屋を歩く娘を見て、「あれか、『毎度おさわがせします』か」と叱りつける場面があった。

『毎度おさわがせします』とは、性に興味津々の中学生たちとそれに頭を抱える大人たちをコミカルに描いたドラマで、1985年から1987年にかけて3作がTBS系で放送された。その1作目で俳優デビューしたのが、当時中学3年生で、きょう3月1日、54歳の誕生日を迎えた中山美穂である。

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 上記の阿部サダヲのセリフは、このドラマで中山の演じた中学生・のどかが、下着姿で走り回ったりしていたのを念頭に置いてのものだろう。このほかにも劇中では、毎回のようにエキストラの女性たちが胸をポロリと出したりと、いまから考えるとかなりきわどいシーンが多かった。中山も、シャワーを浴びるシーンで胸が見えそうなカットがあり、それを嫌がって泣いたことがあったらしい。そのため父親役で共演した小野寺昭は《パート2をやるとき、「美穂ちゃんはもう来ないんじゃねぇか」と僕らは心配していたんです。でも、「大事なデビュー作のパート2だから」と、ちゃんと出てくれました》と振り返る(『週刊現代』2013年10月5日号)。

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絵に描いたような不良少女

 中山はこのドラマのオーディションを受けたとき、脱色した髪の毛に丈の長いスカート、白いマニキュアという、まさにこの時代の不良少女を絵に描いたような出で立ちだった。だが、ドラマのプロデューサーだった阿部祐三は、《斜に構えてはいたけど、醸し出す雰囲気に、他の子にはない光るものがあった》として、起用を決めたという(『週刊現代』前掲号)。

 悪ぶっていたのは、淋しい気持ちの裏返しでもあったようだ。物心ついたときには家に父親はおらず、母親からはのちに、彼女が3歳のときに生まれたばかりの妹・忍(現・俳優)とともに長野の小さな町から上京したとだけ聞かされていたという。東京に出てからも、母が働くために姉妹はいろんな家に預けられた。そのなかで、中山は忍とよく縄跳びの両端をマイク代わりにキャンディーズの真似などをしていた。ドラマ『3年B組金八先生』の放送が始まると、テレビを見ながら、「私も歌ったりお芝居したりする人になりたいな」と何となく思うようになったという。中学入学前の春休みには、原宿でスカウトされ、少女モデルの仕事を始めた。これが芸能界デビューへとつながっていった。

『C』(1985年)

『毎度おさわがせします』で中山が演じたのどかのキャラクターはインパクト大で、初回放送の翌日から彼女は人々に騒がれ、電車に乗れなくなるほどであった。1985年には続けてドラマ『夏・体験物語』で初主演を務め、その主題歌となった「C」で歌手デビューも果たした。この年暮れの日本レコード大賞では最優秀新人賞にも輝く。

大人への不信

 こうして中山はアイドルとしてまたたくまにスターダムにのし上がり、のちに当時の記憶がほとんどないと語るほど多忙をきわめるようになる。人気が出ると、それまでガキ呼ばわりしていた周りの大人たちの態度も一変し、そのことが10代だった彼女の大人への不信に拍車をかけた。