かつて、ハリウッド映画を筋肉が席巻した時代があった。鍛え上げられた肉体を誇示するスターが人気を博した時代という意味だ。言うまでもなく、それを牽引したのが『ロッキー』(1976)のシルベスター・スタローンと、後を追うように『コナン・ザ・グレート』(1982)でメジャーデビューし、スタローンのライバルに躍り出たアーノルド・シュワルツェネッガーである。
1970年代後半~80年代を席巻した2大スター
2人の筋肉比べは熾烈を極める。『ロッキー』シリーズの2作目までは主に筋肉の増量に努めたスタローンは、『ロッキー3』(1982)からは体脂肪率を落とす作戦に変更する。量より質にこだわれば見た目もついてくるというわけだ。
一方、映画デビュー前にミスター・ユニバース、ミスター・オリンピアほかボディビル界のタイトルを総なめにしたシュワルツェネッガーは、スクリーンでもまるで演技するボディビルダーのようだった。代表作『プレデター』(1987)のクライマックスで最強のエイリアンと一騎討ちになる時、彼の太い筋肉が泥まみれになっていく様は、神聖なものが汚れていくようなスリルがあった。
痛みを伝えことができるブルース・ウィリス
そんな筋肉2大巨頭が互いの個性を競い合う中、ハリウッドに根強いマッチョ神話をぶち壊したのが『ダイ・ハード』(1988)のブルース・ウィリスだ。ウィリス演じる刑事のジョン・マクレーンはボクサーでもなければ不屈のコマンドーでもない。どう見ても優秀そうには見えないし、私生活では妻と別居中という、いわゆる普通の男が、武装集団相手に文字通り“なかなか死なない”しぶとさを見せる。そこが新鮮だった。