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 本書のタイトルにもなっている『死刑囚になったヒットマン』張本人である小日向将人の死刑が確定したのは2009年。書籍刊行に先立ち「文春オンライン」で手記の一部が公開されたのが2022年2月。記事によれば手記は、確定後の2018年から2020年ごろに東京拘置所で書かれたものだという。手記を入手したのは本書の共著者ともなっている元「文春オンライン」記者の山本浩輔氏。小日向の家族でもなければ宗教関係者でもなさそうである。

 確定後の死刑囚による手記を第三者が直接入手するのは難しい。どういう経緯なのか。ひょっとして養子縁組したのか? そんな興味から本書刊行を心待ちにしていた。なぜか2度ほど発売日が延期となり、非常にヤキモキする日々を送るなか、ようやく刊行されたのは今年1月だった。

30歳頃の小日向死刑囚 ©文藝春秋

元ヤクザの牧師が手記をまとめることを提案

 本書は小日向の手記パートと、山本氏による解説パートが交互に続いていくスタイルで、「前橋スナック銃乱射事件」の詳細はおろか、概要すら知らない読者であろうとも、最後までついてこれるよう工夫がなされていた。なぜ小日向が手記をまとめ、それが山本氏の手に渡ったのかという経緯も本書終盤に書かれていた。

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 それによると「信仰」が始まりだったようだ。キーマンである牧師は、小日向と同じ幸平一家傘下の組で暴力団員だった過去を持つ。小日向の刑が確定する前に面会を始めたが、確定後は面会が不可となった。だが文通は続けられたため、何度か手紙のやりとりをしていたという。そして2017年、次男の病死をきっかけに、小日向はキリスト教に関心を持ち始める。

元ヤクザの進藤牧師(本人のInstagramより)

 面会が不可である牧師の代理で、クリスチャンの弁護士が面会し、小日向は信仰を告白し、クリスチャンとなる。その後、件の牧師が手紙を書き「被害者に対する謝罪の気持ちともっと向き合うために」と、手記をまとめることを提案したのだという。こうして書き上げられた手記が、牧師を経由し、山本氏の手に渡ったということのようだ。

2003年1月に発生した「前橋スナック銃乱射事件」

 手記が出版された経緯も興味深いが、内容そのものも興味深い。2003年1月に発生した前橋スナック銃乱射事件は、当時、住吉会の幸平一家矢野睦会に所属していた小日向と山田健一郎(死刑確定)が前橋市のスナックに赴き、銃を乱射。4名が死亡したというものだ。抗争相手を狙って起こした事件だったが、無関係の一般人3名が事件に巻き込まれ、命を落とした。小日向は逃亡先のフィリピンで身柄を拘束され、2005年3月、一審・前橋地裁で死刑を言い渡される。控訴、上告したがいずれも棄却され、2009年に刑は確定した。

 なぜ一般人を巻き込む結果となったのか。それも本書に書かれているように、矢野睦会会長・矢野治の指示によるところが大きいようだ。小日向は事件前に3回、襲撃中止を進言していたというが、矢野からは「いいから行け」「店の中にいるのは3、4人だ」「いるのは仲間だろうから構わない」など、事実と異なる情報も与えられ、最終的に実行に及んでいると手記にはある。