2003年、組織のトップの命令で一般人3人の命を奪ってしまった、「前橋スナック銃乱射事件」実行犯の小日向将人死刑囚。『死刑囚になったヒットマン 「前橋スナック銃乱射事件」実行犯・獄中手記』の刊行前からこの「確定死刑囚の手記」に関心を寄せていた、ライターの高橋ユキ氏は本書をどう読んだのか。
◆ ◆ ◆
仕事柄、ノンフィクションの新刊を定期的にチェックする。特に事件カテゴリに属するノンフィクションは念入りに確認する。文藝春秋のウェブサイトで『死刑囚になったヒットマン』の刊行予定を知ったのは2023年秋頃のこと。心底驚いた。
それには理由がある。著者の小日向将人は現在、確定死刑囚だからだ。もちろん獄中から手記が刊行されること自体は、全く珍しいことではない。例えば、八木茂とともに本庄保険金殺人事件に関わった武まゆみによる『完全自白 愛の地獄』(2002年7月刊行)や、2016年に発生した金塊強奪事件の主犯とされる野口和樹による『半グレと金塊 博多7億円金塊強奪事件「主犯」の告白』(2019年10月刊行)などが思い出されるが、彼らは死刑囚ではなく、刊行時期からは、刑が確定する前の未決囚だった時期に刊行準備を進めていたものと推察される。
未決囚は大きな制限がなく、面会や文通が可能
死刑囚による手記ですぐに思い出されるのは首都圏連続不審死事件・木嶋佳苗による『礼讃』(2015年2月刊行)、そして2004年に渋谷駅での駅員銃撃や横浜中華街の中華料理店経営者銃殺事件を起こした熊谷徳久による『奈落 ピストル強盗殺人犯の手記』(2006年11月刊行)などだが、いずれも立場が未決囚である時期の刊行となる。
未決囚は字の如く、刑が確定していない立場であるため、外部交通も一般的には大きな制限がない。面会も可能だ。細かな制限が生じることもあるが、それが本稿の主題ではないため、ここでは省く。気になる方は法務省のウェブサイトや「刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律」を確認して欲しい。とにかく死刑を言い渡されていても、未決の立場であれば、おおむね大きな制限なく面会や文通が可能だ。手記の送付という行為そのものにも困難はない。
どうやって死刑囚から手記を手に入れたのか?
ところが確定すると、死刑囚とそれ以外では取り扱いに大きな差が生じる。無期懲役囚や有期懲役囚など死刑囚以外は、基本的には文通は可能であるが、確定死刑囚は、第三者との直接の外部交通が難しくなる。家族や宗教関係者など、ごく限られた者だけが確定後の外部交通を認められるものの、取材名目の記者と、確定死刑囚との、長期にわたる面会や文通が法務省に許可されることはほとんどないと言っていい。大牟田4人殺害事件で死刑が確定している井上(旧姓北村) 孝紘が、民事裁判のため法務省から特別に許可を得て、ジャーナリストの小野一光氏と一時的に文通を行ったのは稀有な例であろう。