夫一人の稼ぎで「やっていけない」
結婚を前にした若い男性は、自分一人の稼ぎで大学まで子どもの学費を払い、マイホームのローンを返し、老後に備えて貯金することなどとうてい無理だと思っている。出版社には、「専業主婦願望の強い彼女に読ませます」という反響が来ているという。「専業主婦問題」は男の問題でもあるのだ。
「人生100年」の長寿社会を迎えて、これまでの人生モデルはかんぜんに行き詰まった。60歳で定年退職すれば老後は40年、夫婦2人で計80年だ。1000兆円もの借金を抱えた日本国が、増えつづける高齢者の長い老後をずっと保障してくれるなどという法外な話がほんとうにあるだろうか。
欧米はすでにこのことに気づいていて、アメリカにつづいてイギリスでも定年制が廃止された。老後問題とは「老後が長すぎる」という問題だから、長く働けばそのぶんだけ老後は短くなる。世帯所得を増やすもっとも確実な方法は世帯内の働き手を増やすこと、すなわち共働きだ。そう考えれば、超高齢社会の最強の人生設計は「長く働く、いっしょに働く」以外にない。
これはべつに奇異な主張ではなく、誰が考えてもそうなるほかないという意味で「1+1=2」のような話だ。欧米でこの本が出たとしたら、「なにを当たり前のこといっているの」と話題にもならないだろう。世界にさきがけて超高齢社会に突入したにもかかわらず、いまだに「専業主婦モデル」にしがみついている日本が異常なのだ。
そんななかでも、この単純な事実に気づいたひとたちは増えている。10年後の私たちは、「生涯共働き」の世帯と、夫の乏しい年金だけを頼りに暮らさざるを得ない世帯とのあいだにとてつもない経済格差が開いている現実を目にすることになるだろう。
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作家。1959年生まれ。早稲田大学卒業。編集者を経て、2002年、経済小説『マネーロンダリング』(幻冬舎)でデビュー。小説、評論、投資術など幅広い分野で活躍。著書に『言ってはいけない 残酷すぎる真実』(新潮新書)、『臆病者のための億万長者入門』(文春新書)、『タックスヘイヴン』(幻冬舎文庫)、『幸福の「資本」論 あなたの未来を決める「3つの資本」と「8つの人生パターン」』(ダイヤモンド社)など。