それで新たに酒本氏のところに依頼が寄せられる。
酒本氏はつづける。
「このような案件があれば、うちでは床ごとはがして特殊な薬品で清掃をします。床下にまで汚れと臭いが染みついているからです。状態がひどければ、床下の木材の臭いがついた部分を削った上で、それをしなければならないこともあります。遺体の汚れや臭いを取り除くには、そこまで徹底的にやらなければならない。
これだけのことをするには、それなりの時間と費用がかかります。お客様の中には『安いから』という理由で特殊清掃の業者を選ぶ方がいます。しかし、この業界では“安かろう、悪かろう”が普通にあるので、慎重に業者を選択しなければなりません」
特殊清掃が専門性を求められる仕事だからこそ、どこに依頼したかによって成果が著しく異なるのだ。
ペットが遺体を食すことがある
数多くの特殊清掃の現場を見てきた酒本氏が、近年案じているのがペットを飼っている独居老人だ。
お年寄りは一人暮らしの寂しさから、犬や猫などをペットとして迎え入れる。
だが、飼い主が突然倒れて亡くなった場合、家に閉じ込められたペットは空腹に耐えかねて、遺体を食することがあるのだ。
酒本氏が特殊清掃の依頼を受けて現場に入るのは、警察が遺体を運び去った後だ。
だから、遺体がどういう姿かはわからないが、死後何カ月も経っているのに、ペットが生き残っていたり、床に大量の糞が散らばっていたりすれば、遺体が食されたであろうことは想像がつく。
「主人を食べて生き残ったペット」を飼う気にはなれない
問題は、このペットをどうするかだ
遺された親族や家主にとっては、主人を食べて生き残ったペットを飼う気には倒底なれない。
そこで特殊清掃業者にゴミと一緒にペットの処分も頼む。
特殊清掃業者にとって、これは手間のかかる負担の重い仕事だ。
まず動物保護団体のところへ連絡し、引き取りを依頼する。そこが承諾してくれればいいが、そうでなければ保健所へ連れていくことになる。