国交省の「平成30年度 マンション総合調査」によると、1980(昭和55)年には全国のマンション区分所有者のうち、21 .7%だった「永住するつもりである」世帯が、2018(平成30)年には、62.8%まで上昇している。それだけ人々の住宅に関する意識が時代とともに大きく変わっているというわけだ。そんな分譲マンションで、今起こっているさまざまな問題とは……。
ここでは、NHKスペシャル取材班による『老いる日本の住まい』(マガジンハウス)の一部を抜粋。マンションが終の棲み家になり、住人の高齢化が進むことで生じているトラブルについて紹介していく。(全2回の1回目/続きを読む)
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建て替え済みマンションが300棟に留まる理由
国交省の調査に「永住するつもりである」と回答した高齢世帯の中には、「ここに住み続けたい」という積極的な人だけではなく「ここしか住むところがない」と考えている人も含まれるはずだ。高齢者にとって住み替えはハードルが高い。老朽化したマンションを売っても新たな家を買う元手には足りず、近年よく報じられるように賃貸への入居は年齢を理由に断られる。住み慣れた環境を変えることへの不安も大きいだろう。独立して暮らす子どもがいたとして、双方がすんなりと同居に同意するかといえばそうもいかないことは想像に難くない。
あるいはマンションを再生するには建て替えという手段があるが、ここでも費用の壁が立ちはだかる。
これまで国内で建て替えが実現したマンションの大半は都心の一等地など好立地の物件で、かつ建築容積率にも余剰があった。容積率とは、土地の広さに対して建築できる建物の床面積の割合を指す。1000平方メートルの土地の容積率が300%の場合、延床面積最大3000平方メートルまでの建物が建てられる。もともと建っていたマンションの床面積が2000平方メートルだったなら、建て替え時に1000平方メートル分を増床できる。増やした分を新たな住戸として販売することで建て替えにかかる費用をまかなうというわけだ。
住人同士の合意形成も困難
それほど恵まれた条件にある物件は少ない。建て替えに成功した事例が国内で300棟程度しかないという事実はそれをよく示している。今後老朽化するマンションは最初から容積率いっぱいに建てられていることが少なくなく、同じ方法は取れない。近年建て替えたマンションでは1戸あたり平均2000万円近い費用負担が発生している。