後半の2つは特にマンションならではだ。近年はごみの分別が細分化されているが、認知機能が低下すると判別が難しくなる。マンションの住人や管理人から「今日はそのごみの日じゃないですよ」と注意されたのをきっかけに怖くなってごみ出しができなくなり、部屋に溜め込んでしまう人は珍しくない。より深刻化するとそこから火が出てボヤ騒ぎに発展することもある。自分の部屋に戻れないのは、すべてのドアが同じ色と形をしていて見分けがつかないためだ。どうにか帰ろうと、他の部屋のインターホンを押して回る人もいるという。オートロックも鬼門だ。
認知症の疑いがある人は10年間で約2倍に
あるマンションでは一人暮らしをしていた70代の女性が行方不明になった。管理者の男性は「以前お会いしたときは近所をふらふら歩いていて、もしかしたら認知症みたいなことだったんじゃないでしょうか」と振り返る。警察へ連絡して行方を捜しているが、今も見つかっていない。部屋には家具や荷物が残ったままだ。
認知症の住人の存在が与える影響は近隣トラブルだけに留まらない。繰り返しになるが、現在の区分所有法では管理組合が物事を決める際、集会を欠席した人は反対に数えられる。行方不明者や認知症で意思表示ができない住人がいると決議がしづらくなるのだ。警察庁によると、認知症やその疑いがあり、徘徊などで行方不明になったと届け出があったのは2022年の1年だけで全国で1万8709人。統計を取り始めた2012年から毎年増え続け、10年間でおよそ2倍になった。今後も増えることが予想される。
孤独死の一番のネック
そしてもう1つの大きな問題が孤独死だ。東京23区では65歳以上の孤独死が2003年から2018年の15年間で1441件から3867件と一挙に増加した。全国的な統計はとられていないが、同じような状況が広がっているだろう。
「最近見かけないなっていうのと、管理費を滞納していて、ちょっとおかしいなと。部屋を訪ねていったら通気口から虫が出入りしているんです。それで郵便受けの扉を開けたら虫がワーッと出てきた」
3年前、80代の男性の孤独死が発生したマンションで、当時管理組合の理事長を務めていた住人はそう語る。消防と警察に連絡して部屋に入ると遺体はすでに白骨化しており、死後3カ月が経過していた。同じ階の住人は誰も異変に気付いていなかったという。