期待と不安が混じった新年度がやってくる。フレッシュな気持ちで新生活に臨みたいけれど、今までの当たり前が終わり、新しい何かが始まる……。そんな“変化のうねり”を前にたまらなく不安になってしまう方も多いことだろう。
『へぼ侍』(原作:坂上泉/漫画:みもり)は、そんな不安を跳ね除けるような、小さな炎を私たちの心に灯してくれる。
父の無念を晴らすため、少年は立ち上がる
物語の舞台は明治時代初期。「明治維新」によって、武士が権力を握る時代が終焉を迎えた頃だ。約700年近く続いた“武士の時代”。当たり前に君臨していた権力が一気にひっくり返る……。新時代に期待を膨らませる一方で、想像を絶する喪失や混乱に見舞われた者も多くいたはずだ。
本作の主人公はまさに後者のタイプ。大阪で士族の跡取りとして生まれた志方錬一郎は、明治維新で家が没落した後、薬問屋へ奉公に出ていた。賊軍の汚名を着せられた父の無念を晴らすために、いつか戦で武功を立てるのだという野望を心中に抱いて。
戦に赴く日を夢見て、錬一郎は密かに剣術の稽古を行なっている。そんな錬一郎についたあだ名は“へぼ侍”。武士の時代は終わったのに、それでもなお棒切れを振り回している奴がいる……文字通り錬一郎を小馬鹿にしたあだ名だ。
だが、明治10年に勃発した西南戦争をきっかけに、錬一郎にチャンスが巡ってくる。強者ぞろいの薩摩軍に対抗するために、明治政府は「戊辰の動乱」で戦った士族たちを「壮兵」として徴募することになったのだ。軍歴がなければ採用されないため、錬一郎には縁のない話だったが奉公で培った商人の交渉力、銭の力を活かして官軍に潜り込む。