「もう検察を信用できない」「検察に正義を語る資格はない」

 今年1月16日、自民党派閥の政治資金パーティをめぐる裏金問題で、「東京地検が安倍派幹部を不起訴の方針」との報道が流れると、国民の間には失望の声が広がった。真相解明は3月に行われた政治倫理審査会の場に譲られたが、出席した西村康稔前経産相ら安倍派幹部は「会計に関与していない」とシラを切るばかりだった。

 世間では検察への不信感は今も燻り続けているが、そんな状況に対して元東京地検特捜部長の五十嵐紀男氏が、なぜ検察は安倍派5人衆を逮捕できなかったのか、について自身の経験をもとに分析している。

ADVERTISEMENT

安倍派を家宅捜索する特捜部 ©共同通信社

政治資金規正法が「ザル法」と言われる理由

 五十嵐氏は、最大の原因は「政治資金規正法」の欠陥にこそあり、同法を「羊頭狗肉のザル法」と断じる。

〈(政治資金)規正法は大変立派な法律と言えるが、違反の名宛人(処罰対象)が政治資金を使用する議員ではなく、その事務を取り扱う会計責任者に限定している点が問題である。議員の責任を問うためには会計責任者との共謀を立証しなければならないが、実は、これがかなり難しい。規正法が「ザル法」と言われるゆえんはここにある〉

 実は五十嵐氏自身、現役時代に政治資金規正法をめぐって苦い思いをしている。

 1992年の東京佐川急便事件で、五十嵐氏は特捜部長として捜査指揮にあたり、同社から闇献金を受けた「政界のドン」こと金丸信元自民党副総裁を、政治資金規正法違反の疑いで略式起訴した。政治家に対して政治資金規正法を適用したのは、戦後間もない造船疑獄以来、実に38年ぶりのことだったが、この処分について国民から厳しい批判を受けたのだ。

金丸信氏 ©時事通信社

検察庁舎の看板にペンキが投げ付けられる

 捜査の過程で、東京佐川の社長が金丸氏に5億円、金子清新潟県知事に1億円の闇献金をしていた事実が明らかになっており、金子知事と会計責任者は起訴された。当然、国民は金丸氏に対してはより厳しい刑事処分が下ると思っていた。

 ところが――。