〈金丸氏については、同氏の政治団体の会計責任者は金丸氏の地元山梨県で農業を営む男性で、会計事務にも収支報告書の作成にも関与しておらず、名目上の存在にすぎないことが分かった。会計責任者を処罰できない以上、その共犯として金丸氏を共犯で処罰することはできない。
1億円を貰った金子知事を公判請求して5億円を貰った金丸氏を処分できないというのは、あまりに不公平である。規正法を検討した結果浮上したのが、同一人から年間150万円を超えて寄付を受けてはならないという、法定刑が罰金20万円以下の量的制限違反の罪であった。法定刑20万円というのはいかにも軽罪である〉
「罰金20万円」というだけでなく、金丸氏が上申書の提出のみで、検察による取り調べを受けなかったことも、世間の批判を浴びた。検察庁舎の看板に黄色のペンキが投げ付けられるなど、「検察は不平等だ」「金丸を特別扱いするな」といった非難の嵐が吹き荒れた。
検察は議員の弁解を崩す証拠を得られなかった
今回の安倍派の裏金事件においても、政治資金規正法の“壁”が検察の前に立ちはだかったのだろう、と五十嵐氏は見る。
〈1992年に金丸信という政治家本人に規正法を適用してから32年が経った。収支報告書の不記載罪・虚偽記入罪の主体が事務方の会計責任者のままで、資金を使う議員はその防波堤の内側にいる構図は現在まで変わっていない。前述のように、会計責任者と議員の共謀を認定するのは至難と言ってよい。(中略)議員からは「検事さんの言うことはよく分かりますが、忙しくて報告書の内容を見る暇がなく、会計責任者を信頼してすべて任せていました」と弁解されたと思われる。議員会館の事務所等を捜索しても、検察はこの弁解を崩す証拠を得られなかったのであろう〉
「国民の期待に応え、戦いのできる武器を検察に」
このような実態を前に、五十嵐氏は政治資金規正法の改正を強く訴える。
〈検察の唯一の武器は法律である。法律が使い勝手の悪いものであったなら、巨悪を処罰することはできないし、処罰できたとしても軽罪で済まさざるを得ない。「国民の期待に応え、戦いのできる武器を検察に!」。これが32年前に法律に泣かされた検察OBとしての私の願いである〉
「文藝春秋」5月号(4月10日発売)及び「文藝春秋 電子版」(4月10日公開)には、五十嵐氏による緊急寄稿「特捜部はなぜ5人衆を逮捕できないか」が掲載されている。同じく政治資金規正法が問題となった小沢一郎の「陸山会事件」の本質的な問題点や、政治資金規正法を改正すべき具体的なポイントについても、詳細に綴っている。
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