第96回アカデミー賞長編アニメーション賞を受賞した宮﨑駿監督(83)の『君たちはどう生きるか』。日本で大ヒットとなった本作は、北米でもスタジオジブリの歴代作品で過去最高額の興行収入を獲得した。今年1月にはアカデミー賞の前哨戦ともいわれるゴールデングローブ賞を日本のアニメ作品として初めて受賞。さらに2月には、“アニメ界のアカデミー賞”と呼ばれるアニー賞で、長編部門の絵コンテ賞とキャラクターアニメーション賞に輝いている。

受賞作の第3弾ポスター ©2023 Hayao Miyazaki/Studio Ghibli

「君たち」は宮﨑駿の「黙示録」

 本作の作画監督を務めたアニメーターの本田雄氏(56)がアカデミー賞受賞後初めて月刊「文藝春秋」の取材に応じ、映画賞総なめの舞台裏を語った。

「(アカデミー賞発表の)あの日は普段通り、午前11時くらいに出社して、お昼過ぎには宮﨑さんも来ていました。目が合うと、こちらにやって来て『おめでとう』って言うんです。いやいや、あなたでしょ、って感じで(笑)。『こちらこそおめでとうございます』と返しましたよ。内心喜んでいるとは思うんですが、あまり表情には出していませんでしたね。いつもと変わらない様子で、パノラマボックス(絵の描かれた板を重ねて作る展示物)のための絵を描いていました」

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 アカデミー賞授賞式当日に記者会見を開いたスタジオジブリの鈴木敏夫プロデューサーは、アメリカでヒットした要因を「『君たち』は内容が聖書。宮﨑駿の『黙示録』。だからアメリカの人は受け入れやすかったんじゃないかな」と語っていた。これについて、本田氏は、

宮﨑駿監督 ©文藝春秋

「そうそう。僕もそれを聞いて『そうなのか』と思いました(笑)。言われてみれば『モーセの十戒』のように海が割れるシーンもありますしね。

 でも、正直に言うと、『君たち』がアメリカでウケたり、よもやアカデミー賞を獲れるなんて、僕は夢にも思っていなかった。アメリカでは『アニメは子供のもの』ですからね。『君たち』のように複雑な世界観の作品は違うんだろうなと。

 僕はディズニー&ピクサーの『マイ・エレメント』が本命だろうと思っていたんですよ(笑)。あれは面白かった。アニー賞でロスに向かう飛行機の中で観たのですが、『やっぱりピクサーは外さないなあ』と」