「先生、そこを選ぶんですか⁉」
森脇 僕は『MAO』の扉絵にもすごく思い入れがあって。デジタルで仕上げたイラストも素敵なんですが、先生の水彩画にはやっぱり温もりがあるよなぁ……としみじみ感じます。キャラクターがずらっと並んだこの一枚がとくにお気に入りですね。岡本はどう?『犬夜叉』の大ファンとしては。
岡本 私はコマのセレクションが印象的で、「えっ、そこですか⁉」と驚いたんですよね。ご存知のとおり『犬夜叉』には名シーンが山ほどあって、桔梗が「ただの女になれた」場面とか、奈落をついに倒すことができたクライマックスとか……。そんななか、これ、これ、これ⁉と(笑)。
森脇 5つのコマのうち、3つがコメディシーンだもんね。『MAO』もそうだけど、先生はシリアスな作品だろうとギャグは欠かさない(笑)。
岡本 りんが殺生丸に「りん、もう動いていい。」と言われてほっとするこの場面とか、あまりにもささやかすぎるコマで。でも先生のコメントを読んでハッとしたんです。
「しゃべれない子がしゃべれるようになって、表情も出てきて…『りん』というキャラクターをだんだん固めていく、という中での性格付けとして、この感じはすごく私は好きだなって思います」――そのキャラの人間性が見えたという意味では、確かにとても大きな意味を持っているなって。そうした視点でコマのセレクションを振り返るとまた面白いです。
「脳みそが疲れていても楽しめるんですよ」
―― 昭和の大ヒット作である『うる星やつら』が令和の今、再びアニメ化されて話題を呼んでいるように、るーみっくわーるどはいつまでも古びない魅力を放っています。私の友人のお子さんは2010年代後半に生まれた小学生ですが、『らんま』と『犬夜叉』が大好きです。あらゆる世代を惹きつける秘密は、どこにあると思われますか?
岡本 やっぱり高橋先生にとって「読者はどう思うか」が一番大事なんですよね。その漫画家としての芯がずっと揺るがないからではないでしょうか。
森脇 うん、シンプルにそこだと思いますね。僕、この原画集を編集しながら「高橋先生は読みやすさに命をかけている」とつくづく感じたんです。もちろん漫画家なら皆さん心血を注いでいることではありますが、先生の台詞とコマ運びのテンポは群を抜いている。
先生に「台詞を作るうえで意識していることはなんですか」と聞いたことがあるんですよ。そうしたら「『一息で言える』『語感が良い』、そして『前に進む言葉』をちゃんと選ぶことです」とおっしゃって。