では、こうした流れの中で銀行はどんな役割を担えばよいのか。
田中氏は、既存の投資信託だけでなく、銀行が取り扱いやすく、個人顧客のニーズにも合った新たな金融商品の普及を提言する。
「三菱UFJの副社長時代に『市場性商品総合口座』の導入を検討しました。国債や格付けの高い社債、投資信託など、安全性が比較的高い金融商品を組み込むとともに、それらを担保にした随時の借り入れを可能にすることにより、流動性も提供する、という商品です。担保掛け目は7~8割のイメージでしょうか。1000万円の商品なら700~800万円までは通常の預金のように引き出せる。お客様にとっては、預金よりは高いリターンが期待できるとともに、流動性があるので金融商品の長期保有にも資すると考えました。預金からシフトする分については、銀行が預金保険料や資本規制から解放されます。こうした商品があれば預金を投資商品に移せると考えました。しかし担当のリテール部門から『システム投資が莫大になります』などと反対されて頓挫しました。国民の資産形成のため、こうした商品が必要だという考えは今も変わりません。例えば、政府がかつてのマル優のような優遇税制を作って、こうした口座を普及させ、インベストメント・チェーンへの転換を後押ししてはどうかと考えています」
こうした提言は、今後の銀行改革の方向の一つを示すものだろう。だが、銀行が抱えている難題は間接金融の限界だけではないのだ。
銀行業務を代替する技術革新
銀行を襲うもう一つの脅威は、技術革新の波だ。
銀行は、貸し手と借り手を仲介する「金融仲介機能」、手元の資金の何倍もの融資を実行する「信用創造機能」、口座振替、送金を担う「決済機能」という三つの機能を果たしてきたが、これらの機能は、いずれも「豊富な情報力を使って貸出先の信用を見極められる」という銀行自体の「信用」によって支えられてきた。しかしフィンテックは、従来の銀行が果たしてきたこうした機能を一挙に代替してしまう可能性があるのだ。
フィンテックの進展によって、個人や法人の信用力を測る方法はすでに多様化している。例えば中国では、個人の信用力を点数で評価する「芝麻信用」が広がっている。
芝麻信用は、中国で利用者が5億人を超える電子マネーアリペイを運営するアリババ系列の信用調査会社だ。クレジットカードの支払い遅延の有無、買い物や金融商品の購入履歴、資産、学歴、職歴、交友関係まで幅広い観点から個人の信用力が点検される。デジタルな取引で蓄積されたビッグデータが活用され、個人の信用力は、350~950点のスコアで点数化されるという。スコアが高いと、借り入れ金利が優遇されるだけでなく、ホテルで宿泊する際のデポジットが不要になるなど、さまざまな優遇措置を享受できる。さらに海外渡航のためのビザの発給手続きが迅速化されるなど国からもメリットが与えられる。
「中国ではプロポーズする際に、相手の両親にスコアを見せるケースも多いそうです。国家ともデータ共有しているので万引き、信号無視でもスコアが下がると言われています」(メガバンク幹部)