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「こんないいチームがなぜなくなるのか」という悲しみと怒り…25年前に消滅した横浜フリューゲルス「最後の夜」

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「試合に出られなかった薩川さんが本当にごめん、みんな頼むと言っていたのを覚えています。薩さんいないけれど、他の選手がなんとかしてくれるでしょと思っていましたね」

この日の先発メンバーは、ゴールキーパーは楢﨑、ディフェンダーは佐藤尽、原田武男、そして前田。中盤は5人、山口、三浦淳宏、サンパイオ、永井秀樹、波戸康広。フォワードは吉田孝行と久保山由清。

対する清水は、ゴールキーパーが真田雅則、ディフェンダーは斉藤俊秀、森岡隆三、戸田和幸。中盤にサントス、伊東輝悦、澤登正朗、そして安藤正裕と市川大祐。フォワードは長谷川健太とファビーニョ。

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前半開始から風上の清水が積極的に攻める。右サイドから伊東が中央にボールを入れ、澤登が頭で合わせて先制点を挙げた。その後も清水の攻勢が続く。中でも前田は慣れない3バックの左サイドで相対する長谷川に手を焼いた。

それでも楢﨑の好セーブもあり、追加点を許さない。流れが変わったのは、前半終了間際だった。山口からの浮き球を久保山が受け取ると反転して左足を振り抜いた。この得点により同点で折り返すことになった。

後半は風上となったフリューゲルスが主導権を握った。後半28分、サンパイオからパスを受けた永井がボールを持ち込み、吉田に渡した。吉田は右足でゴール右隅に流し込んだ。これで2対1。試合はこのまま終了した。

ホイッスルが鳴った瞬間、楢﨑は両手を空に突き上げた。

ロッカールームに用意されていたシャンパン

前田はこう振り返る。

「終わったときは勝利を掴んだという喜びでした。しばらくして、こんないいチームがなくなってしまうんだという悲しみ、全日空に対する怒りが湧いてきましたね」

山根たちは試合出場していない選手たちとピッチサイドで肩を組み、勝ってくれ、頼むと祈っていた。試合終了と共にピッチの中に駆け込み、選手たちと抱き合った。

メインスタンドの表彰台に選手たちが登り、山口が天皇杯を掲げた。表彰式にはチェアマンである川淵三郎の姿があった。川淵の名前が呼び上げられると観客は低い声で不満の意を表した。前田は川淵と握手した瞬間、耳元で「フェアにやってください」と囁いたという。