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「こんないいチームがなぜなくなるのか」という悲しみと怒り…25年前に消滅した横浜フリューゲルス「最後の夜」

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genre : エンタメ, スポーツ, 企業

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ロッカールームにシャンパンが用意されていた。このシャンパンは97年7月、ファーストステージの優勝に備えて山口が購入していたものだった。鹿島が勝利し優勝を逃したため、開栓されることなく保管されていたのだ。

山口はシャンパンの味は覚えていないと首を振る。

「ロッカールームでそのシャンパンを開けてみんなで飲んだはずです。ぼくはインタビューを受けてありつけなかったのかな。いや、乾杯はしたかもしれない。とにかく国立(のロッカールーム)を汚しちゃいけないっていうので、軽く乾杯しただけじゃないですかね」

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「これでみんなとお別れだな」

選手たちは新横浜駅北口に設置された特設会場で2000人ものサポーターに向けて報告会を行った。その後、新横浜プリンスホテルでビール掛けを行っている。1000本のビールがすぐに空き、200本追加された。別室に移動して祝勝会は続いた。そこには全日空スポーツの山田、中西たちは呼ばれていない。

選手会長の前田の周りには人が絶えなかった。

「ぼくは妻と息子と行きました。もう終わりですねという感じで、一人一人に挨拶しました。楢﨑はお父さん、お母さんを連れてきていました。選手会長の前田浩二さんです、大変お世話になりましたとぼくのことを紹介したんです。そのとき涙をこらえることができなかった。

ぼくは最後まで残っていましたね。みんな名残惜しかったんでしょう、なかなか帰りませんでしたね。帰り際、ゲルト(・エンゲルス)がいつか飲んでくださいと言いながら、ワインを手渡していました」

エンゲルスは、銘柄は分からないけど結構高いワインを選んだと思うと笑った。監督として何かみんなのためにやらなきゃならないと思って人数分、買ってきてもらったんだと付け加えた。

山口はこう振り返る。

「これでみんなとお別れだなって挨拶した。一人、二人と帰って行った。ぼくは最後までいた気がする。サンパイオも残っていたんじゃないかな」

フリューゲルス最後の夜はこうして幕が下りた。

田崎 健太(たざき・けんた)
ノンフィクション作家
1968年3月13日京都市生まれ。『カニジル』編集長。『UmeBoshi』編集長。早稲田大学法学部卒業後、小学館に入社。『週刊ポスト』編集部などを経て独立。著書に『偶然完全 勝新太郎伝』『球童 伊良部秀輝伝』(ミズノスポーツライター賞優秀賞)『電通とFIFA』『新説・長州力』『新説佐山サトル』『スポーツアイデンティティ』(太田出版)など。小学校3年生から3年間鳥取市に在住。2021年、(株)カニジルを立ち上げ、とりだい病院1階で『カニジルブックストア』を運営中。
「こんないいチームがなぜなくなるのか」という悲しみと怒り…25年前に消滅した横浜フリューゲルス「最後の夜」

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