ひと目で理解できる資料、コンパクトにまとまった明快な説明、端的なメリットの明示。そうしたものに大きな価値を置くビジネスの世界から眺めるとすれば、現代アートのやっている営みはほぼ零点だ。

 だってそこには、

・見たことのないもの

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・わけがわからないもの

・意味を見出せないもの

 がウヨウヨしている。

 

手加減なしの現代アート

 むしろ初見で混沌として無意味であればあるほど、「よし」とされたりするのだから始末に負えない。社会の流儀から遠く離れた位置にあるのが現代アートであり、それゆえとかく敬遠されてしまうのだ。

 でも現代アート作品を夢中で創るアーティストは後を絶たず、それを支える人たちだってたくさんいる。ということは、そこには何かがあるのでは。ちょっとわかりづらいだけで、おもしろいものや輝くものがちゃんと眠っているんじゃないか。

 そこで。たまには手加減なしの現代アートに、思いきり齧りついてみてはどうだろう。今ならぴったりの展示が開催中だ。東京赤坂の草月会館、草月プラザでのケリス・ウィン・エヴァンス個展。

 

イサム・ノグチの庭園に挑んだ現代アーティスト

 草月プラザはエントランスをくぐると、見渡すかぎりの「室内庭園」が広がっている。20世紀の米国や日本で精力的に創作したアーティスト、イサム・ノグチが手がけた石庭であり、その名も「天国」という。高低差のある空間にさまざまな石が配され、鑑賞者はその中を自由に回遊できるようになっている。

 空間全体を作品とみなして、その場を体感してもらうアートの手法をインスタレーションという。イサム・ノグチの「天国」は、インスタレーションの歴史的な成功例といっていい。そんな名作の中に、このたびケリス・ウィン・エヴァンスがみずから飛び込んだ。

 石の質感と入り組んだ空間構成の妙が支配するこの庭に、彼は「付け加え」をしたのだ。まずは床面から天井までを貫く、3本の大きな柱を打ち立てた。それぞれの柱の表面は、びっしりとフィラメント電球で覆われている。そこに明かりが灯されて、3本の柱はランダムに光を発する。

 さらには、柱の近くに堂々たる松の植木を置いた。台座が電動でゆっくり、ゆっくりと回転している。その様子はまるで、能役者が独特の動きで静かに舞っているかのようにも見える。