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緻密な計算の上になりたつ、あの応援

――ところで何で「ロッキーのテーマ」なんですか?

ロッキー 色々試したんだけど、洋楽で歌詞がないのが一番いいんだよ。ただ、僕はトップランナーにはまず流さない。彼らが通り過ぎて市民ランナーが来るようになったあたりから、ぐんぐん走る人向けの「アイ・オブ・ザ・タイガー」(「ロッキー3」のテーマ)を流して、顎が上がってくるようなランナーが出てきたら、「ロッキーのテーマ」を流す。歩幅とリズムを合わせてあげることが大切なんだよね。

――ボリュームもすごいですよね。

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ロッキー 4時間台のランナーがいるとしたら1秒間に3m走るでしょ。計算すると50mから60mくらい聞こえれば、25秒、サビをワンローテーション聞くことができる。だから25秒のループが延々流れるように編集した4時間の音源を作ったんだよ。昔はもっと短かったんだけど、そうするとリバースするときに間ができるでしょ。だから途切れないように編集して。あと、普通のラジカセだと音の届く範囲は15mぐらいが精一杯だから、50mくらい届くスピーカーを買って。あれ、6万~7万円ぐらいするんだよ。

©文藝春秋

――立っている場所も絶妙ですよね。マラソンの辛いポイントに必ずいる。

ロッキー だって下見行ってるもん。下見に行って、応援が少なくて、ランナーが辛いと思いそうなところを見つけてるんだから。だけど、ここだ、って決めても当日トイレや給水所が立ってることもあるけどね。あと看板の設置場所も探さないといけないからさ。

――看板ですか?

ロッキー つくばマラソンだったら、15km地点に「今日もロッキー31km」って書いた看板を貼るんだよ。そうすると31kmにロッキーがいる、ってそこまでみんな頑張れるじゃない。あと工事現場の看板と同じ大きさぐらいで「挫折禁止」って作ったりね。これは「ロッキー」とはテーマが合わないから、15kmと31km地点の間に貼っておく。

――お持ちの看板って、ランナーに響くメッセージが多いですよね。気持ちが分かるってことは、ランナーなんですか?

ロッキー いや。昔、牛久シティマラソンで5km走っただけだよ。ただ5kmでもきつくてさ、そんなときに「頑張れ!」とか言われると相当辛いんだよ。「ふざけんな、頑張ってるのに、これ以上か!」ってね。だから頑張れは言わない。メッセージは一年中探してて、映画やCMでいいセリフがあったら、ネタ帳に書いておく。

“偽善者ロッキー”?

――そこまでするのに、何で無表情なんですか? 笑顔で「ファイト!」とか声をかけないんですか?

ロッキー 勘違いしてもらっちゃ困るんだけど、僕はずっと会社の同僚を待っているだけだから。みんなを応援しているわけじゃないんだよ。そこまでいい人じゃないから。

――みんなを応援してくれてると思ってたのに……。ちょっとショックですね……。

ロッキー だから記事のタイトルは「偽善者ロッキー」でもいいよ。

©文藝春秋

――じゃあ、会社の人が来たら、手を振ったりするんですか?

ロッキー いや、別に。ビデオ撮らなきゃいけないから、それどころじゃないんだよね。音楽よりもビデオのほうが大事だから。あっちも一瞬で通り過ぎちゃうでしょ。こっちはサロンパスとか、飲み物とか、絆創膏とか用意してるのに、お前は立ち止まらないで行っちゃうのか、って思うよね。本当はそこで帰ってもいいんだけど、やめようとすると他のランナーに「やめないでくれ」って言われるのよ。手を上げてくれる人も2000人ぐらいいるし。だから最終ランナーまで見届けてるだけで。そこからは辛いから無表情で立ってるだけだね。