作家も、もっともっと挑戦しなければ
――最後に、甲斐監督の台詞の中で印象的なのが、勝敗を左右するポイントとして選手に語る「メンタルが七割」があります。これには、何か裏付けがあるのですか?
池井戸 残念ながらありません。でも、真実かどうかの小説は要らないと思います。問題は読み手に納得してもらえるかどうかですから。
――なるほど。では、作家のメンタルはいかほどでしょう。
池井戸 同じかも。でも、そのメンタルはしょっちゅう揺らぐ。小説を「よし、書くか」と決意するまで随分と長かったり(笑)。そしてメンタル以外に必要なのは、やっぱり体力ですね。今回も、『俺たちの箱根駅伝』を書き終えてから半年間グッタリしてしまい、次の小説を1枚も書けませんでした。
あとは、絶えず挑戦するメンタルも大事だと思います。たとえば、もっと売れる小説を届けたい、とか。最盛期の『少年ジャンプ』と同じくらい、受け入れられるような小説があるとすればどんなものだろう、とたまに考えたりします。こういうプラス思考は創作の原点になり得ると思います。
――『少年ジャンプ』! 最盛期は653万部です。
池井戸 そうですね。日本だけでも1億2000万人以上の人がいるんだから、たとえば100万部ぐらい売れたって不思議じゃないはずなんですよ。実際マンガは売れているでしょう。ならば小説だって売れるはずです。そもそも小説は、エンタテインメントのひとつのコンテンツとして、大きな可能性を秘めているんですから。
ただ書店がどんどんなくなっていることを考えると、これまでのやり方では通用しないことは明白です。必要になるのは、今までにない新しい工夫と挑戦なのだと思います。
(取材・構成/大谷道子)