「一円を笑う者は一円に泣く」と言うけれど…ここでは完璧主義すぎて出世できなかった銀行マンのエピソードを紹介。店内に落ちていた1円玉を警察に届けさせ、ときにはカレンダーがめくられていないだけで激怒する彼が、出世できなかった理由とは? 精神科医の片田珠美さんの新刊『職場を腐らせる人たち』(講談社)より一部抜粋してお届けする。(全2回の2回目/前編を読む)
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「完璧主義」すぎて部下たちを疲弊させる支店長
某金融機関の男性支店長は何かにつけ細かいので、部下は閉口しているそうだ。たとえば、店内に落ちていた1円玉を部下に命じて警察に届けさせたことがある。「金融機関なんだからお金に関して間違いがあってはならない。後からお客様が、1円玉が落ちてなかったかと捜しにいらっしゃったら、どうするんだ」というのが、その理由らしいのだが、そんな客って実際にいるんだろうかと首を傾げずにはいられなかった。
たしかに「一円を笑う者は一円に泣く」という言葉もあるので、1円だっておろそかにできない。しかし、いい年をしたスーツ姿の行員が1円玉を届けに来たとき、警官も面食らったのではないか。おまけに、3ヵ月経っても、持ち主が名乗り出なかったので、わざわざ受け取りに行ったと聞いて、私は吹き出した。
この話をしてくれた男性行員は、その支店に勤めていて、毎日支店長から細かく注意されたり叱責されたりして、眠れなくなったということで、私の外来を受診した。支店長がどれだけ細かいかを示すエピソードとして話してくれたわけだ。
この行員は、ハンコがちょっと斜めについてあっただけで、支店長から30分以上ガミガミ言われたり、付箋を貼る位置がちょっとずれていただけで、付箋の貼り方について1時間以上も説教されたりして、疲れ果てていた。他の行員も困っているようだが、支店長は間違ったことを言っているわけではなく、反論しにくいという。
もっとも、あまりにも細かいことを指摘されて、そのチェックに時間がかかるせいで、作業能率が上がらず、この支店の業績は落ちているらしい。その結果、支店長の機嫌が悪くなり、一層口うるさく注意するので、部下が畏縮して、作業能率がさらに低下するという悪循環に陥っているようだ。