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 その後もトムの暴力や暴言はエスカレートする一方だったが、この緊迫した関係は2019年に破局を迎える。きっかけは、ローズを抱っこしているハイディをトムが激しく揺さぶったことだった。「これ以上は本当に無理」と感じたハイディはトムと別れる決意をした。

 フランスでは結婚せずに子供をもうけるカップルが普通で、2人も結婚ではなく「パックス」というパートナー制度を利用していた。結婚でなく「パックス」のカップルの間に生まれた子供についても、別離後の親権は両親に与えられる。

 フランスの裁判所によってローズは基本的にハイディと一緒に生活することになったが、月に2回の週末と学校休暇の半分の期間はトムの家で過ごすことになった。この時点でもハイディは「トムのDVは自分のせい」と思い込んでいたので、裁判所の決定を受け入れた。

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「トムが憎んでるのは私だけで、娘の世話はちゃんとしてくれるだろうと思っていたんです。別居すればトムも優しくなると期待もしていました」

「父親に性器に指を入れられた」というまさかの訴え

 別居によってトムのDVから解放されたハイディだったが、この後最悪な形で暗転することになる。離婚から数カ月が経ったある日、ローズが「父親に性器に指を入れられた」と訴え始めたのだ。すぐにハイディはローズを産婦人科医に連れていったが、実際に被害があったのかはこの段階ではわからなかった。

ローズが性的被害を受けた時の自分を描いた絵。指を性器に入れられて泣いている様子を描いているとして、裁判にも証拠として提出された

 だがその後もローズは父親からの性暴力を医者とハイディに訴え続け、精神的に不安定になり、昼夜を問わずおねしょをする、1人で寝るのを嫌がる、自分の部屋に人が入ってくるのを怖がるなど、行動にも異常が見られるようになっていった。幼い娘が精神的に追い込まれるのを目のあたりしたハイディもまた、「まるで世界が崩壊していて、自分が嵐の中に放り込まれたような」状態だったと振り返る。

 翌年、意を決したハイディはついにトムを刑事告発した。しかしフランス当局の判断は「証拠不十分で不起訴」。

 しかしハイディは諦めず、不起訴後に再度トムを近親姦(フランスの刑法では近親者による暴力、強制、おどしによる口および性器への挿入はすべて近親姦とされる)で告発する手続きをとり、現在も裁判が続いている。トムは近親姦の容疑を否定し、ハイディが娘に嘘をついて操っている、と非難している。なお、2020年にはローズを診察した臨床心理士が、「告発されている近親相姦と合致するPTSD状態」にあると結論づけている。