国会で審議が急速に進む「共同親権」が悪化させる家庭内暴力の問題は、フランス国内でも話題になっている。

「男女平等の先進国」というイメージが強いフランスだが、実は日本人による「子供の連れ去り」を問題視する姿勢が強く、共同親権については推進一本槍の立場を崩さない。男女両方が育児に関わることをうながす共同親権の導入は、男女平等の理想に繋がっているはずだという考えが強いからである。

 筆者はパリで生活しているが、周囲の離婚したカップルなどを見ていても、両親が子供の養育に参加することを保証するシステムとして共同親権はフランス社会に定着している感がある。

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 しかし近年問題になっているのが、DVや子供の虐待があったケースでは「共同親権」が加害者の権力を強化していまうという可能性だ。

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 日本でも共同親権に慎重・反対する人は、DV被害者が加害者との関係性を断ち切ることが難しくなり、DV関係が継続してしまう懸念を表明することが多い。

「情熱による犯罪」としてDVの弊害を過小評価していたフランス

 だがフランスが1987年から2002年にかけて徐々に離婚後の共同親権を法制化した際、「家庭内暴力についての懸念はあまり議論にならなかった」という。社会学者のアンヌ・マリー・ドヴルーは当時をこう振り返る。

「2002年にももちろんDVは存在していたが、『me too運動』が起きるまでは社会的な認知がとても低かった。だからDVの心配をする声は大きくなかった」

 さらにフランスではDVのことを、愛情が強すぎるために暴力に至る「情熱による犯罪」だと考えられていた時期が長く、その弊害が過小評価されてきた歴史がある。

 さらにフランス法では「父権」という概念が伝統的に存在し、1970年までは母親ではなく父親が家族についての権利を独占してきた。そのため、両親がともに子どもの親権を持つ「共同親権」制度は、「それまでの家父長制に比べれば民主的でよい方向に行くように見えた」とドヴルーは解説する。