「配偶者に対して暴力的でも、子供への虐待がなければ良い父親」は本当?
またフランスの裁判所に「片親疎外」の考えが根強く残っていることも問題の解決を難しくしている。「片親疎外」とは、母親が子供を操って父親による性虐待を訴えさせている、というもので、女性や子供の証言が軽く扱われる傾向がある(学術的には、同居している親が子供を操るケースは実際はごく少数だと言われ、国連は昨年各国に家族法関連分野におけるこの概念の使用を法律で禁止するよう呼びかけている)。
また「配偶者に対して暴力的であっても、子供への虐待がなければ子供にとっては良い父親になりうる」という考え方が強く、DV被害者が加害者との共同養育を余儀なくされてきた。
これらの点についてフランスは国連からも批判されている。今年1月に発表された声明では「フランスの家庭裁判所が家庭内暴力の事件で、『片親疎外』の理論を使って母親が訴える性被害を過小評価している」ことに対して懸念を表し、子供の利益の尊重や司法手続の充実の必要性を訴えている。
DV被害者の弁護を専門にする弁護士のアンヌ・ブイヨンは、家庭内暴力があった場合の共同親権の妥当性について否定的だ。「共同親権が家庭内暴力を持続させるかと問われれば、答えは当然そうです。この仕組みによって、同居中とはまた違った形で暴力が続いたり、あるいは悪化することさえある」
フランスの政界も徐々に動き出し、DVや子供の虐待があった際に加害者の親権を停止もしくははく奪しやすくする法律が可決された。具体的には、1人の親がもう片方の親への重犯罪(例えば強姦、殺人)や、子供に対する性的暴力や近親姦などで有罪になった場合、親権を自動的に失うことになった。
また、予防的な保護命令を出すことができる制度も国会で審議されている。フランスでは共同親権というシステム自体に反対する声は小さいが、DVや虐待の被害者を守るためには多くの仕組みが必要で、ただ共同親権を導入すればいいわけではないという理解が広がっている。
「共同親権そのものは、母親の役割から女性を解放するというフェミニズムの理想が具現化されたもの。問題はその運用なんです」(ブイヨン弁護士)
日本で急速に進む「共同親権」についての議論は、果たしてどのような結末を迎えるのだろうか。
その他の写真はこちらよりぜひご覧ください。